第12話
☆☆☆
「ここからオアシスまで、どこくらいかしら?」
「さぁね。上から見たときには、たいして遠くなさそうだったけどな」
「歩いたら何時間?」
「知らねぇよ」
めんどくさそうに答えるアリム。
ローズはそんなアリムの背中に飛び乗った。
「うおっ!?」
こけそうになるのをなんとか踏みとどまり、中腰になって背中に両手をまわす。
強制的におんぶさせられたアリムは「なんだよ、お前」と、不服そうな顔色を浮かべる。
「あたしね、何年も塔にいたから長時間歩けないのよ」
「うそつけ、走って逃げたくせに」
言い返しながらも、渋々足を進めるアリム。
「男のくせに細かいわね」
そう言って、ローズはアルムの頬をつねった。
「いてっ! 暴力女」
「なんですって?」
「ってかさ」
「なによ。まだ文句言うつもり?」
「背中に胸、当たってんだけど?」
アリムの言葉に、ローズは一瞬小さな悲鳴をあげて、足をばたつかせた。
「おいちょっと! 危ないだろ!」
「おろしてよ、変態!」
「って、お前が勝手に飛びのったんだろうが」
それでも暴れるローズについにアリムが体をバランスを崩す。
そのまま倒れこむようにして後ろへこける2人。
「っ……いってぇ……」
後ろ向きに倒れそうになったアリムは咄嗟に体を半回転させていた。
しかめた顔を上げると、そこにはこちら向きに倒れてキョトンとしているロースがいる。
咄嗟にローズの頭の下に手をいれ、その衝撃はすべてアリムへとかかっていたのだ。
「あ……え?」
ようやく状況が飲み込めたのかローズは頭を浮かせた。
アリムが大きく息を吐き出しながら、手をどかすと血がにじんでいた。
運悪くそこには尖った石があったため、傷はかなり深い。
「うそ!?」
その場に座り込んだアリムに、ローズは慌ててドレスのすそを裂いて、それを包帯代わりにした。
「ごめんなさい、あたしっ……」
どうしようかと涙が浮かびそうになったとき、ローズの頭にアリムがそっとふれた。
「ケガ、ないか?」
「あたしは……平気」
(だって、アリムが守ってくれたじゃない)
「じゃぁ、行くか」
何事もなかったかのように立ち上がるアリム。
「ちょっと、待って! 大丈夫なの!?」
「あぁ。オアシスに着けば水も薬草もある。平気だ」
だけどその顔は苦しげで、包帯代わりに巻いたばかりのドレスはすでに赤く染まっていた。
「このまま動くなんて危険だわ。どんどん血が出てる」
「大丈夫だって、言ってんだろ」
「でも――!」
言いかける言葉を遮るように、アリムの唇がローズの唇に触れた。
やわらかくて、暖かい。
「お前、俺の事好きにならないって言ったけど……俺は、案外お前の事好きかもな」
ぶっきらぼうにそう言い、アリムは歩き出した。
その後ろから見える耳は真っ赤になって照れていて……ローズは思わず、頬を緩めたのだった。
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