第10話

「誰も……誰もあたしを助けに来てくれてなかったの?」



「そりゃぁ……何人かはいたかもしれねぇけど……」



突然泣き出したローズに、アリムはバツが悪そうに頭をかいた。



「お父様が、賞金をかけたって話は?」



「それは本当だ」



「そう……」



アリムは蛇を岩の上に置き、その頭を尖った石で取り除いた。



蛇の血が、岩を伝ってポタポタと落ちる。



「あたながあたしを助けた理由って……」



「……金だ」



「そっ……か」



当然だ。



縁もゆかりもない王の娘を、命を張って助けるなんて。



目的はただ1つしかない。



アリムは蛇を皮をはがし、身を食べやすい大きさに切りながら口を開いた。



「俺には、妹がいる」



「妹?」



「あぁ。俺より2つ年下で、16だ。名前はサリエ。お前なんかより、よっぽどいい女」



「一言余計なのよ」



「今、病気を患ってる」



言いながら、細かく切られた蛇の実に枝を突き刺し火のそばに突き刺す。



「悪いの?」



「あぁ。数ヶ月前から街で流行ってる病気で、体内での潜伏期間は一時間。発症して一ヶ月で、ほとんどが死んでる」



「その話、魔女のおばあ様に聞いたことがあるわ。空気感染するから、窓を開けるなって言われてて」



その言葉に、アリムはまた笑い始めた。



だけど、今度はどこか自傷的な、苦しげな笑顔だった。



「なんだ、お姫様。魔女に愛されてんじゃねぇか」



「なに、言ってるの? あたしは幼い頃に誘拐されて、実験台にされるかもしれなかったのよ!?」



さすがに、ローズも声が荒くなった。



ずっと閉じ込められて1人ぼっちだった。



この孤独はきっと誰にも理解できない。



アリムは焼けた蛇をローズへ渡し、そして「で? どんな実験台にされたんだよ?」と、聞いた。



「それは……」



口ごもるローズ。



実際には、なにもされていない。



これから何かされる可能性もあったけれど、でも、それも断言できることではなかった。



「身の丈にあった綺麗なドレスに、艶のある健康的な髪。細すぎず、太すぎもしない体。見てみろよ、俺の姿を。これが街の商人の姿だ。こんなの服って言えるか? ボロ雑巾だろ」



言いながら、アリムの声は徐々に小さく消えていった。



情けなさをかみ締めるように、焼けた蛇にかぶりつく。



「……お金がいるのね」



ローズの言葉に、アリムは答えない。



「妹さんのために、いるんでしょ?」



「……あぁ、そうだ」



自分のためじゃない。



裕福になるためにほしいわけじゃない。



そう、自分に言い聞かせるように、アルムは言葉を搾り出す。



「妹は、発症してから3週間が過ぎてる」



「だから、あんなやり方であたしを塔から連れ出したのね……」



「そうだ。もう、妹には時間がない」



「そうなの……」



揺らぐ心。



この男を助けたいと思う心。



ローズは男の服にそっと手をかけた。



袖の部分は真っ黒に汚れて、所々裂けている。



「これが、現実なの?」



「あぁ……」



「働いても、こんなに貧しい暮らしをしているの?」



「お前が食べた毒の実。あれと一緒だ。外の世界で生きるためには、自分自身に毒を持たないと生きれない時もある」



「あたしは……あの塔の中で……」



(幸せだった?)



その言葉は、恐くて言えなかった。



自分は被害者で、いつか王子様が助けてくれて。



そんなことを夢見るばかりで、自分から外の世界を知ろうとはしなかった。



外へ出る努力だって、してこなかった。



「あたし、あなたのことは絶対に好きにならないわ」



「勝手にしろ。俺は金がほしいだけだ」



「やっぱり、あんたって性格悪いわ」



言いながらローズは自分がアリムに惹かれていっていることに気がついていた……。

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