第9話

昨日の洞窟まで戻ってくると、ローズは炭になった小枝の横に寝かされた。



ここに来るまでにも何度も嗚咽し、胃液を吐いた。



そのためか、手足の感覚はほぼ元に戻っていた。



「今夜のためにまた小枝を拾ってくる」



朝食を終えたアリムが立ち上がるのを見て、ローズは口を開いた。



「今日は……移動……しないの?」



カラカラに乾いた声だ。



「動くと体内に毒がまわる。テメェのせいでまたここで野宿だ」



チッと舌打ちをするその姿に、ローズの胸はギュッと締め付けられたのだった。


☆☆☆


毒のせいで体力を消耗したローズはいつの間にか眠りに落ちていた。



気がついたときには火が炊かれていて、その向こうには目を閉じて眠っているホワイトがいた。



その寝顔が可愛くて、思わず微笑む。



「起きたか」



その声に振り返ると、アリムは大きな蛇の首をつかんで立っていた。



その様子に、思わず悲鳴をあげそうになるが、なんとかそれを我慢した。



蛇は濃い茶色で、ローズの体の横幅をゆうに上回るほど大きかった。



「これが、今夜のご飯?」



「そうだ。嫌ならこっちを――」



言いながら、後ろ手に隠していたドラゴンレッドを差し出すアリム。



「ちょっと、やめてよ!」



咄嗟に後ずさりする。



アリムはその様子におかしそうに笑うと「冗談だって」と、ドラゴンレッドと眠っているホワイトの横に置いた。



「あなたって性格悪いわ」



「お前は世間知らずだ」



「ボロボロの服着てるし」



「人を見た目で判断すんのか?」



「全然王子様って感じがしないし」



「王子? 俺は街の商人だ」



なに勘違いしてんだ?



という顔を浮かべるアリムに、唖然として言葉を失うローズ。



「おい、お前今まで俺が王子だと思ってたのかよ」



これは傑作だ!



そう言うように、お腹を抱えて笑い始める。



その大きな笑い声に、ホワイトが驚いて目を開いた。



「……どういう事よ……」



ローズの目には悲しみと怒りが見え隠れする。



「王子って……王子がお前を助けるなら、とっくの前に助け出されてるだろ?」



アリムの言葉がチクチクと胸に刺さる。



本当はわかっていた。



時間が経てば経つほどに、それが現実味を帯びてきていたから。



誰も、自分を助けようとはしてくれていない。



最初の頃は何人も勇敢な王子が塔に来ていたと、魔女は言った。



でも、それをそのまま信じられるハズもなく……。



気がつけば、涙が頬を伝って落ちた。

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