第8話

(もう……だめ)



グッタリと湖の横に横たわって目を閉じたとき、ガサガサと木を揺らす音と、森から逃げていく鳥達の鳴き声が耳に入った。



うっすらと目をあけてそちらを見ると……白い龍が見えた。



その背から慌てて降りてくるアリムの姿も。



「お前、なに食った!?」



ローズの状態を見てすぐに察したのだろう、アリムは鬼の形相だ。



でも、ローズにはすでにその質問に返事をする元気も残っていなかった。



「口がきけないか? 唇も真っ青だ。お前赤い実を食べたな」



焦った中にも、呆れたニュアンスを持たせてアリムは言った。



そして、次の瞬間。



アリムはローズの体を横にし、その口に中指と人差し指を突っ込んだのだ。



ローズは苦しみに涙を浮かべて、その手から逃れようとする。



「吐け。まだ間に合う」



喉の奥のほうまでアリムの指が挿入されると、ローズはたまらず嘔吐した。



吐いたものは真っ赤で、所々果実の種が混ざっている。



「やっぱり、これか」



アリムは自分の手を湖で洗い、大きな葉を器がわりにして水をすくうと、ローズへ飲ませてやった。



「この実はドラゴンレッドだ。これをまともに食べられるのは竜だけ。わかったか?」



「あ……うぇっ」



胃の中のものをすべて吐いても吐き気は止まらず、涙を浮かべる。



「しばらく苦しいだろうが、全部吐け。ちょっとでも体内に残ると死ぬぞ」



冷たく言うとローズを肩に担ぎ、そのままホワイトの背中に乗せた。



ホワイトは不安そうに「キュゥ~」と、か細く鳴く。



アリムは昨日と同じようにローズの後ろに乗り、ドレスの端を握った。



「ホワイト、昨日の洞窟へ行け。このバカ女のせいで朝飯食えてねぇから、お前はその後ここのドラゴンレッドを食えばいい」



「キュゥゥ?」



「俺か? 俺は昨日の虹鳥がまだ残ってるから、それでいい」



「キュッキュッ」



ホワイトは嬉しそうに頷き、フワリと浮いた。



ウロコに捕まる力もないローズは、アリムがドレスを握り締めてくれていたため、なんとか振り落とされずにすんだのだった。

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