第7話

洞窟を飛び出したローズは走って走って、走りつかれた頃に小さなオアシスを見つけて、その入り口に倒れこむようにして座り込み、そのまま眠りについた。



雨に濡れて下の草が冷たかったけれど、それさえ気にならないほどに疲れていて、目を閉じると同時に意識を手放した。



それから、数時間後。



鳥の鳴き声がしてローズは目をさました。



いつもと違う風景に一瞬戸惑い、それから「あぁ……」と、上半身を起こして記憶を呼び戻す。



(そうだわ、あたし。昨日アリムとかいう男に連れ出されて、それから……)



虹鳥の羽をもぐ姿を思い出し、一瞬にして眠気が吹き飛んだ。



「あんな野蛮なことするなんて、信じられないわ」



そう呟きつつ、オアシスの中を進む。



そこは岩砂漠の中にポツンと浮かぶ小さな森。



近くからは水音も聞こえてきて、ここら辺だけは色々な植物や動物が命を繋いでいられる場所になっているようだった。



ローズはとにかく水音の方へと歩きながら、お腹をおさえた。



起きた時から感じている、空腹感。



昨日、アリムと出会ってから何も口にしていないから、当然だ。



「お腹、減った……」



湖や河を見つけられれば、そこに魚くらいいるかもしれない。



そう思っていたのだけれど……。



空腹はすでに限界がきていたようで、ローズはその場にしゃがみ込んでしまった。



昨日走り回ったため、足には血もにじんでいる。



ぐぅぅーと、お腹が悲鳴を上げたとき、ローズの目に背の低い木になっている赤い実がうつった。



「木の実だわ!」



思わず喜び、自分と同じくらいの背のその木に飛びつく。



その木も、葉も、実も、見たことのないものだった。



だけどそれは、自分がずっと塔に閉じ込められていて外の情報を遮断されていたから。



「きっと、大丈夫よね」



不安がないといえば、うそになる。



でも、あの虹鳥を食べたり、空腹に耐え続けることを考えると、ローズの手は自然と赤い実を千切っていた。



ツルンと丸い果実を鼻に近づけると、甘い香りがした。



(これなら食べられそう)



そう思い、1口かじる。



甘い味が口いっぱいに広がり、噛むと小さな種がプチプチと音を立てた。



(おいしい!)



それからはもう、必死だった。



とにかく胃に果実を入れることだけに夢中だった。



だから、気づかなかった。



実を千切った場所から、白い樹液がトロリと流れ出し、それがゆっくりゆっくり枝を伝って落ちていく。



木の足元にいたリスのような生き物が、それに気づいてその場を飛びのいた。



白い樹液はジュッと音を立てて、リスが飛びのいた下にいた小さな虫を溶かしてしまったのだ。



そうこの木には毒があったのだ。



それに気づかず、3つ目の実を千切ったローズは喉の痛みを感じていた。



何度かむせこむが、それが取れることはない。



喉の痛みは次第に強くなり、手足が痺れをもってくる。



「なに……?」



思わずローズは手に持っていた実を落としてしまう。



立っているのがやっとという状態で、ヨロヨロしながら水を探す。



水の音は次第に近づき、小さな滝と、その下の澄んだ湖を見つけたときは泣き出しそうな顔をしていた。



ローズは湖に顔ごとつけ、その水を体内へと流し込む。



でも……。



飲んでも飲んでも消えない喉の痛み。



手足のしびれは更に悪化し、もう感覚がないほどだ。

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