第5話

アリムの言葉に、ローズは「わからない」と、呟いた。



塔の外へ出られたけれど、この状況が嬉しいのかどうかさえ、今はまだわからなかった。



この青年が、あまりにも突飛すぎて。



自分の物語には不似合いだったから。



2人の服と竜のウロコが渇いたころ、外の豪雨の音が少し小さくなっていた。



「腹、減ったろ」



「ええ、そうね」



塔から出て何時間経ったかわからないけれど、確かに空腹だ。



「夕飯を取ってきてやる。ちょっと待ってろよ」



「夕飯?」



「あぁ。どうせ今日はもう動けない。ここで一晩明かす事になる」



(こんな場所で!?)



ローズは思わず辺りを見回した。



自然にできた洞窟が奥の方まで続いていて、その先は真っ暗で何もみえない。



もしかしたら、何か危険な野生動物が住んでいる可能性だってある。



そんなローズの不安に気づく素振りもなく、



アリムは大きな枝を一本だけ持ち、洞窟を出たのだった。


☆☆☆


アリムが洞窟から出たのを確認すると、ローズはホワイトにそっと近寄った。



クリクリとした大きな目が、ローズの姿を捕らえて何度か瞬きをした。



その愛らしさに、ローズは思わず微笑む。



ホワイトの鼻のあたまを撫でながら「あなた、賢いのね」と、語りかける。



すると、ホワイトは「キュゥ」と、小さく返事をした。



「人の言葉がわかるの? すごいわ」



そう言うと、ホワイトは喜んだように何度も首を上下させ、それから体を伏せてローズ前に背中を出した。



「乗れって、意味?」



「キュゥ!」



「わかったわ。さっきので随分慣れたしね」



言いながら、ローズはホワイトの背中にまたがった。



するとホワイトは上体を起こし、洞窟の天井ギリギリの高さまで浮かび上がった。



それはさながらジェットコースターのようで、ローズは悲鳴を上げて、ウロコにしがみついた。



ホワイトは体をくねらせながら、洞窟の中をぐるぐると回る。



最初はしがみつくのが精いっぱいだったローズも、徐々にそれが楽しくなってきたようで「すごいわ!」と、喜びの声をあげた。



今にも天井に手が届いてしまいそうだ。



外で乗っていた時はスピードこそあったものの、ホワイトは2人を振り落とさないように安全に飛んでいた。



でも今は、まるでローズを歓迎し、喜ばせるためだけに飛んでいるようだった。



そして、その後。



一匹の大きな鳥を捕まえて帰ってきたアリムに気づき、ホワイトはそっと着地した。



「ありがとう。とっても楽しかったわ」



そう言い、竜の背中から降りる。



「ホワイトが自分から背中に乗せるなんて、珍しいな」



「そうなの? とっても楽しかったわ!」



息を弾ませて言うと、アリムは軽く笑い返した。



「きっとホワイトに気に入られたんだな」



「そうだと嬉しいわ」



そう答えたとき、ローズの目にアリムが逆さにして足を掴んでいる鳥がしっかりと目に入った。



途端に息を飲み、口に手を当てるローズ。



「その、鳥……虹鳥じゃない?」



息絶えている鳥の羽は灰色だが、生きているうちは虹のように輝く羽をもっている。



その容姿から、虹鳥と呼ばれていた。



「あぁ、そうだ。焼いて食べるぞ」



「待って!」



「なんだよ」



火へ向かうアリムを、思わず呼び止めた。



(その鳥を、食べてしまうの?)

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