第3話 青い肌の人しかいない

昔は色々な肌の人種(ひとしゅ)がいたと聞いた。確かか。


はい、今は肌色と言えば薄青の一色ですが、遙か昔は色々な肌の色がございました。


なぜ、一つの色になったのか。


神々の怒りを買い、世界中で生まれる子供たちの肌の色を、一つの色に纏められたからでございます。


怒りとは何か。


肌の色で諍(いさか)いが絶えなかったからと伝えられております。


今も戦争は無くならん。

神はなぜ"肌の色"という争いの理由だけを取り除いたのだ?


神の名を使われたから、と言われております。

神の名において優れた人種、優れた肌色、優れた髪色。

同じ神を戴(いただ)く国々の中でも、人種によって優劣を付けて争い合う姿を見て呆れたのでしょう。


救えんな。

今も争う理由は下らないものばかりだが、少なくとも肌の色の濃い薄いで争うことはないか。


ええ。

神の御業(みわざ)か、肌の色の濃い薄いは家系に関わらず生まれますので。

それに、日に焼ければ薄青の肌も濃紺に染まります。


それでも、とやかく言う者たちは居たのではないか。


居たそうですな。

既得権を持つ優越者達は、それでも権利を主張したそうです。


馬鹿なのか?

権利の土台を神に否定され、それでも諦め切れないなど、自分は欲張りだと喧伝(けんでん)しているだけだろうに。


争いに疲れていた人々は、人種の壁も無くなったことから手を結び、声の煩い者たちを纏めて追放したそうです。

自らの来歴に誇りを持っていたのに捨てざるを得なかった者、愛しい我が子に自らの徴(しるし)を伝えられなかった者、神の怒りに触れるきっかけとなった声の煩い者らは、声を上げなかった多くの民から相当に怨まれていたそうですので。


なるほどな。

聖書の内容は迂遠(うえん)過ぎるゆえ好きになれなかったが、ただ一つ好きな言葉の由来が知れた気がする。


どの聖句ですかな。


煽動者よ、永遠に呪われろ。


閣下、それは聖句ではなく閣下の御先祖様の落書きです。




※蛇足

神様はそんな面倒なことは多分しないです。

やったのは人間のお偉いさん達、という設定です。

人種の問題が極まってどうにもならなくなった世界で、誰もが損をする解決策で乗り切ったというお話し。

それでも納得出来ない人がいるなら、誰だってお手上げでしょう。


あと当然ですが、肌の色が同じになっても問題はすぐに無くなることはないと思います。

ですが、そうせざるを得なかったという歴史の教訓と、世界中の人が見た目全く同じという事実があることで少しずつ改善していって、何十何百という年月が掛かって、このお話の時点ではようやく問題無くなったよ、という流れにしました。


タイムマシーンも無いのに、自分達の先祖の主張だけが正しいと主張する人達がうようよいる世界は、いっぺんリセットするしかないよね、という極論でした。

まあ人間なので、多分何やっても繰り返すと思いますが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

閣下と爺や @kajiman

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る