第6話 終幕
「ど、どうしたトモ、幽霊みたいになっちゃって」
「これで未来は変わったんだ。僕は僕のいる未来ごと消えてなくなる」
簡単な理屈だ。オオウナギがいなくなれば、この怪物に荒らされた未来もなくなる。ならば、その世界を生きた智也も……
「トモ……最初からそれを分かって……」
「いいんだ。そのために僕はずっと時間遡行を研究してきたのだから」
オオウナギが現れてから智也が時間遡行するまで約六十年。まだ少年の晋にとっては途方もない時間のスケールだ。歴史を変えるためにそんな時間を費やした智也がこんな最期を迎えるなど、幾ら何でもあんまりではないか。
かける言葉を見つけられない晋は、黙って智也のTシャツの袖を掴もうとした。だがその手は、虚しく宙を切った。
「この時代の僕によろしく……」
その一言だけ残して、智也の姿はすっとかき消えてしまった。晋は両頬に涙の筋を作りながら、ただ呆然と立ち尽くしていた。
***
翌日、晋はベンチに腰掛けてじっと湖を眺めていた。夏の暑さも忘れて、この少年はただ昨日のことに思いを馳せていた。
そんな晋に人影が一つ、近づいてきた。その人影に、晋は見覚えがあった。
「トモ……?」
そこにいたのは、智也であった。本当は昨日の内に来るはずだったのが、湖の騒動でさらに一日遅らせることになったのだ。
智也の姿を見るなり、晋は居ても立っても居られなくなり、立ち上がって智也の細い体を正面から抱きしめた。
「俺だけは……トモのこと忘れないから」
「え……急に何……」
事情を知らない智也は、目をきょろきょろさせて戸惑っている。智也の声にはっとした晋は、我に帰って智也の体を離した。
湖面はきらきらと、夏の日差しを浴びて輝いている。穏やかに、きらきらと――
恐怖! 殺人オオウナギの夏 ~~未来から来た怪魚ハンター~~ 武州人也 @hagachi-hm
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