第12話 極限を制する者達

『いいねいいねいいねぇ!何処までも純粋な力と力のぶつかり合い!剣と剣とが奏で合う耳に障る癖に最っ高なハーモニー!俺が聞きたかった音楽はこれなんだよぉ!』


『な、なんて強さだ……今まで戦ってきたどの剣士よりも……強い!』


 さっきから一進一退の攻防が続いてはいるけど、それはもう辛うじてという表現が近くなっていた。それだけ僕が消耗しているって証拠なんだけど。


『もっと……もっとぉ……!お前を食わせろぉ!』


『さっきからずっとそうしてるじゃ……ないか!』


『いいやまだだ、まだ足りない……もっと俺を滾らせろぉ!』


 フィールドを展開した事によるエネルギーの過剰消費か、ジェイルとの剣戟の中での疲れなのか、僕は遂に相手の反応に一瞬追いつけなくなった所を点かれて重い一撃を受けて倒れてしまった。



(お前はまだ、一歩を踏み出せていない……極限に至れていないのだ……)


 僕が次に目を覚ましたのは辺り一面が真っ白な空間だった。そして目の前には青と白の鱗が目を引く竜の姿があった。


「僕の……極限?それに一歩を踏み出せてないってどういう事だよ!?」


(お前は今、ただ人を救いたいという気持ち1つで戦っているな?なら、お前は本当の戦士にはなれていないのだ)


「じゃ、じゃあどうすればいいんだよ!」


(お前の心の鎖を解き放て……あの日、お前と俺はその場の勢いに任せて1つになった代償として記憶に著しい欠損と障害を与えてしまった。だが、今なら改めて……本当の力を引き出せるはずだ!だが、引き返す事もできる……お前の愛すべき者と平穏な日々を過ごす道も選べる……)


「そんなの……決まってるよ。僕は……復活した闇の人達と戦うよ。力を貰った事には力の無い人を守る……僕の気持ちは変わらないよ!」


(そうか……ならば、受け取れ……我が力を!)


 そう言うと竜は僕の周りを勢いよく回りながら僕の中へと入っていった。



『おぉ、やっぱりただでは死なないかぁ……!そうでなきゃ楽しくねぇよ!』


 僕の意識が戻った時、僕の体は光に包まれた後にダメージがある程度回復していた。


『ここからは第2ラウンドだよ!』


『いいぜ……どうやらそっちは本気を出せるようになったらしいからなぁ!もっと楽しもうぜ!』


『いいや……ここで終わらせる!倒せなくても追い詰めるくらいはしてみせるよ!』


 僕らはお互い僅かに残るエネルギーを無駄にしまいと全力で斬りかかった。


『いいねいいねぇ!それでこそ昔のお前だ……!面白くなってきやがったな……!』


『面白く感じてる所悪いんだけど……これで終わりだよ!』


 僕は自分の剣にエネルギーを込め、ジェイルに向かってそれを放った。


『ぐっ……久しぶりに傷が付いちまったな……へへっ、お前は気に入った。また遊んでやるよ』


 ジェイルは腹部の傷を撫でながらも黒い靄と共に姿を消した。その後程無くして僕もエネルギーが完全に尽き、元の人間の姿へ戻ってしまった。


「あ、あれ……いつもなら倒れちゃうはずなのに……膝を付く位で済んでるなんて」


『記憶と力が完全に復活したからな……まぁ、俺がその力を肩代わりしているのが本当の所ではあるが』


「そうなんだ……何か、その……ありがとう」


『礼には及ばん……力を育てるのはお前自身という事さえ忘れなければな』


 そう言うと僕の中にいた竜はそれっきり一言も喋らなくなった。



「今日は休み、ゆっくり体を動かすとしよっかな……ん?」


 街のスイーツショップへ向かおうとしていた僕の目の前に見た事無い制服姿の女の子が現れた。


「貴方がルクシアでしょ?私、見たの……貴方が変身する所を……ね?」


「え、あっ……えっと……人違いじゃないかな?僕は確かに怪人とか怪獣が出たら本能的に体が動いちゃう癖があるけど、変身なんて……」


「その左腕のそれは何よ……」


 この子、話し方的には今時の女子高生って感じがするけど……多分この子は僕と同じ英雄みたいな姿に変身する力を持ってるのかもしれない。


「やっぱり君に隠すってのは無理なんだね……君の言う通り、僕も変身が出来るんだ。けど、そういう君の方こそ……何者なんだ?」


「私は……ルミエル、愛情を司る英雄よ。覚えが無いかもしれないけど、私達は1000年前は親友として色んな場所で戦ったのよ」


 話し方からしてもそうだけど……この子なら僕の昔の事を色々教えてくれるかもしれない。記憶が戻ったとはいえ、確認はしておきたいからね。


「あ、あのさ……その、1000年前の出来事について分かる範囲で教えてくれないかな?勿論覚えてる事もあるけど、そうじゃない事もあるかもしれないから……」


「そうね……じゃあ、場所を変えましょっか」


「え……?」


 目の前にいた少女……ルミエルさんは指を鳴らすと、僕ごと傘が差してある小さなテーブルと椅子が用意してある不思議な空間へ移動した。


「1000年前……この街には8人の巨人がいて、それぞれ人間達を導く為に色んな事を彼らに教えたの。でも、そのせいで人間達は互いに争いを始めたの」


 僕は確か、勇気を……照太君、ルウシアは力を……そして今目の前にいるルミエルさんは愛情を……だとすれば、後の巨人達は……!?


「ねぇ、テネブルって巨人って知ってる?何というか……その人から物凄く強い憎悪の念を向けられてるんだけど……」


「彼もまた8人の巨人の1人だったわ。そして彼の他にも3人、私達や善良な心を持つ人間達に牙を剥いた巨人がいたわ」


 ここまでの話を整理すると、フロンティアシティには8人の巨人がいて、そのうちの少なくとも4人は僕らを裏切って敵についた……って事かな?だとすれば、僕らが討つべき敵って……僕らの仲間って事じゃないか!


「ちょ、待って……それじゃあ、テネブルや他の巨人と僕らは仲間で、同士討ちをしてるって事!?」


「そう、彼らを止める為に私達は一度彼らを封印したの。自分達の命を削ってでも……ね?」


 ふざけるな……そんな事の為に……昔馴染みを傷付けて……ろくに話し合いもしなかったって……そんなの……!


「冗談じゃないですよ!あのっ……彼らとは話し合いをしたの?」


「しなかった……出来る訳無かったもの。だって彼らは既に、聞く耳も話す口も持ってなかったから」


「それでもっ……話を聞いた限りだと、まるで……まるで……僕らが絶対的な正義の元に悪を裁いただけで、何も解決出来てないじゃないか!」


 僕は感極まったのか、ルミエルさんにぐっと顔を近付けながら憤りに近い感情をそのままぶつけてしまった。


「ルクシアは変わらないね……あの時も、こうやって私達他の巨人達を宥めようと頑張ってたもんね」


「僕は正義とか悪とか……光とか闇とかなんて……些細なすれ違いで生じるだけの小さくて分厚い壁だと思ってるんだ。壊す必要も高くする必要もない……乗り越えなきゃならないんだよ……互いを受け入れるからこそ、見えてくるものだって……あると思う」


 事情も知らずに一方的に決めつけるなんて……僕には出来ないよ。


「現に彼らはもう行動を起こしてるわ!今更話し合うなんて……無理よ」


「戦うのは仕方が無いよ……でも、ただ剣をぶつけるだけで終わらせたくない……性格が違ったとしても心があるなら……その思いをぶつける事だって出来るはずだ!僕は彼らを倒すつもりは無い……分かり合うために今は剣を取る……それだけだよ」


「そう……分かったわ。いきなり現れちゃったりしてごめんなさいね。ルウシアからルクシアが蘇ったって聞いたから会いに来ただけなの」


 ルミエルさんはもう一度指を鳴らして僕を元々いた交差点の近くまで帰してくれた。


「強く当たったりして、ごめん!それじゃ、僕はこの辺で……」


「また会いましょうね……ルクシア」


 僕は……僕のやり方を……最後まで貫いてみせる!


 僕はスイーツショップへ走っていく中でそんな事を思うのだった。

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セイシュンフロンティア! よなが月 @T22nd

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