青年達のジハード
鴉
第1話 ある暑い日の1日
それは、ある真夏の日であった。
「あークソ暑いなあ」
灼熱の太陽が降り注ぐ中、そいつは茶髪でパーマをかけ、白のタンクトップにダメージジーンズと先が尖った靴といった、痛い大人の夏のファッションといった具合で、電子タバコをふかしている。
そいつの年齢は24.5歳ぐらいであり、筋骨隆々で身長は185センチ程である。
「早く開かないかなあ」
茶髪のとなりにいる青年は、同じぐらいの年齢の肌艶なのだが、ボサボサの髪の毛に、黒縁のフレームで縁からレンズがはみ出ている分厚い眼鏡をかけ、アニメキャラのTシャツと黒のジーンズにぼろぼろのスニーカーを履いており、さっきからしきりにスマホを弄り、流行のゲームアプリをやっている。
「お前何挙動ってるんだよ?」
茶髪は、黒のオールバックヘアーに、ド派手な花柄が刺繍された半袖のワイシャツとスキニージーンズ、これもやはり茶髪と同じで先の尖った靴を履いている、夜の商売をしている人間の格好をした世俗的な男に尋ねる。
「いやな、会社の連中がいないかどうか嫌なんだよ。ここら辺に住んでる奴って何気に多いし」
「だったらそんな変な格好してくんなよ。今日日のホストですらそんな格好はしないだろ普通」
「いやオシャレだろ!? 少なくともよ、そんな痛い親父のような格好をしてるよりかはだいぶマシだろ!?」
「はぁ〜!?」
「てかよ、ケン、ここら辺だったよなあ?」
ホスト風のイケメンは、ケン、と呼ばれる銀縁オタクメガネ野郎に尋ねる。
ケンはゲームを慌ててやめて、スマホからマップを開く。
「うん、ここら辺だね」
「あれなんじゃねえ?」
茶髪は視力が2.0あるのか、遠くの景色がよく見えており、その視界の先には『大人の楽園 ゴーゴー』と書いてある。
***
神谷蓮と萩原健吾、緋村学人は小学校からの長い付き合いであり、その付き合いは学校を卒業してからも続き、15年以上の腐れ縁である。
蓮は茶髪の髪がうっとおしいのか前髪をいじり、ため息を吐いてモスコミュールを飲んでいる。
「マスター、レッドアイね」
学人もまた、暑いのか花柄シャツのボタンを外してタバコに火をつけている。
「ケンちゃんは何か飲むかな?」
オールバックの40代後半の、中年ぶとりにさしかかった店の店主は、憂鬱な表情を浮かべながら、空のグラスを隣に置き、スマホゲームに興じている健吾に尋ねる。
「えー、いやちょっと飲めるような気分じゃないすね……なんか悪いけど」
「あー、こいつハズレだったんすよ。50歳ぐらいのババアが来たんですよ」
蓮は鼻で笑い、モスコミュールを飲み干す。
「お前だって、鶏ガラのようなブスが来たんだろ?当たりだったぜ俺は」
学人はニヤリと笑いタバコを灰皿に揉み消す。
「でも、勃たなかったんだろ?」
健吾はマスターに「ジントニック」と言って再びゲームに視線を戻した。
「つまり……ハズレだったってわけなんだな」
マスターは気の毒そうに笑い、海外製のタバコに火をつける。
今の時間は夕方の19時半であり、店には彼ら以外おらず、客はまだ来ないために彼らだけの時間が流れている。
「何だよなあ、あのサイト。星5つでクチコミも上々だったのによお。騙されたよ」
健吾はゲームをやめて目の前に置かれたジントニックを口にやり、健康志向なのか、ニコチンタールゼロの電子タバコを吸っている。
「だからお前はリアルな恋愛をするべきなんだよ。今日日出会い系アプリなんかやってもハズレばっかだし。ゲームなんかやってるより自分を磨けよ」
「お前だって、いつも筋トレや道場にばっか行ってて、フリーターじゃねぇか、24歳になるのによ。いい加減に就職しろよ」
「俺はこの生活が気に入ってるんだよ」
健吾と蓮のやりとりを学人は見て、子供の喧嘩を見ている大人が鼻で笑い飛ばすように、鼻で笑い飛ばして二本目のタバコに火をつける。
「学ちゃん、もうそろそろ契約期間切れる頃なんじゃない? 再更新するの?」
マスターは、契約社員である身分の学人の将来を心配している様子である。
「うーん、あんま考えてないすね。第一結構ブラックだし。暴力とか受けてる人っているんすよ。登用試験受けて結果次第すね」
「お前んところ、大手だったよな? いっそのこと正社員になれば生活は安泰なんじゃねえ? 真面目に働いてそうだし」
蓮はタバコに火をつける。
「うーん……」
「まぁ、学人には学人なりの考えがあるからさ俺らが干渉する義理はねーよ」
健吾はそう言うと、再びスマホゲームに興じる。
(こいつたまに真面目なことを言うんだよなあ、まぁ、障害者雇用だとは言っても大手にいるからなあ……)
蓮は、自分達の中でスペック的に上である健吾を羨ましそうに見つめている。
扉が開くと、茶髪の美女が立っており、彼等は、スレンダーでボブカットでCカップぐらいのバストで160センチほどの彼女に釘付けになった。
「阿笠さん、買い物に行って来ました」
そのとびきりの美女はマスターの名前を言うと、買い物袋を持ちながらカウンターに入る。
「あぁ、料理は俺がやるからいいや。忍、みんなに挨拶して」
「はい、梶原忍です。本日付でここで働くことになりました、よろしくお願いします」
忍は蓮達にペコリと頭を下げた。
「あぁ、この子君らと歳は一緒だ。いろんなバーを渡り歩いて来たからいろんなカクテルとか作れるからな、ただちょっとあんまし酒が強くないんだよ」
阿笠は、蓮達に申し訳なさそうにしている。
飲み屋の店員が酒が飲めないと言うのは致命傷であり、彼等は半分拍子抜けしている。
「すいません、私あんま酒強くないんで……」
「いやあんま気にする必要はねーよ、無理に飲ませねーし。酒を飲む前に軽く牛乳とか飲んでろ、悪酔いしなくなるから」
「へー、そうですか」
学人の発言は、居酒屋によくいる親父が語る豆知識だったのだが、忍は目から鱗のような表情をしている。
これが、彼等と梶原忍のはじめての出会いであった。
青年達のジハード 鴉 @zero52
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