デス・ジャッジメント・クリアランス ~危険な三姉妹の物語
lager
8.5話
嵐が、起きていた。
矢場杉産業の本社ビルに、嵐が吹き荒れていたのである。
「どっっせい!!!!!」
ごしゃ。
「えええい!!!」
めきょ。
「なのですぅぅぅぅ!!!!」
がががががががががががが。
三者三様の叫び声とともに破壊の轟音をまき散らしながら、三つの嵐が矢場杉産業を襲っていた。
ビルの外側にいた警備員を汚い花火に変えて堂々と宣戦布告をした一行は、凶薬によってギフテッドに比肩する力を得た矢場杉産業の社員たちを次々になぎ倒していった。
先陣を切ったのは、筋骨隆々のたくまし過ぎる肉体を奇妙なコスチュームに包んだ長身の乙女――レーであった。
まず目立つのは、
しかし、それ以外は、つまり胴体の全ては地肌が露出しており、逞しい大胸筋にうっすら乗った脂肪も、板チョコのように割れまくった腹筋も、あと一歩で鬼の貌が形成されそうな広背筋も、全てが晒されている。
辛うじて、あるのかないのか分からない乳房の先端と股間部分にハートマークのシールが貼られ、首の皮一枚でコンプラを守っていた。
伝説のR18コスチューム、『逆バニースーツ』である。
惜しげもなく晒された胴体部分だけでなく、一応布地を纏っている両手足も、極薄の生地によって、乙女の柔肌……ではなく運慶快慶の彫像のような筋肉のラインをしっかりと見せつけている。
「恥ずい恥ずい恥ずい恥ずい恥ずい恥ずい恥ずい恥ずい」
顔を俯かせ、譫言のように羞恥心を吐き出しながら、悍ましき怪物は進撃を続けていく。
それは、数分前のこと。
『レーちゃん! あなたの筋力は羞恥心と共にその威力を上げていくのです! なのにレーちゃんときたらここ最近はすっかりトップレス姿にも慣れ切って! それでいて最後の一枚は絶対に脱ぎたくないだなんてワガママなのです! それではあなたの持つ《ギフト》は真の力を発揮できません!』
つまり、と。
ツインテールの幼女は腰に手をあて、ふんぞり返って宣言したのだ。
『服を着たまま、全裸よりも恥ずかしい恰好をすればいいのです!』
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
猛る怒声と共に、レーの足が廊下の床を蹴り砕いた。
「ひっ」
目の前には、『筋肉娘萌』と書かれたTシャツを着た中年の男性社員。
砲丸のような速度で射出された体は、踏み出した左足によって急停止。慣性の乗り切った上半身を捩じり、背面全部を使った当身が放たれる。
「鉄・山・靠!!!」
鉄塊のような筋肉と廊下の壁によって圧し潰された男の体のあちこちの穴から危険な汁が噴出し、筋肉娘萌えの男はひび割れた壁の一部と化した。その顔に浮かんだ恍惚の表情の意味を知ることは、誰にも出来ないであろう。
それを為した乙女の顔は真っ赤に染まり、涙目となっている。
ぎぬり、と擬音が聞こえそうなほどの眼光で次なる獲物を捕らえたレーは、再び床を蹴り砕いて駆け出し、新たな叫喚を湧き起こした。
また、別の場所では。
「みんなぁ~。いっくよぉ~!」
たゆん、と。
柔らかな肉が躍っていた。
「マジカル・ミラクル・リリカル・バニー。魔法の力で悪い人たちを皆殺しにしたま~え♪」
アイドルアニメのライブシーンのような挙動であちこちの肉を弾ませる、正統派バニースーツを着たメグの周囲に、キラキラとした光の珠が浮かんでいく。
ぽぽぽぽん。
軽やかな音を立ててそこから現れたのは、もこもことした毛皮に包まれたウサギたちであった。
「それ~!」
聞くだけで血糖値が上がりそうな甘ったるい声で発された号令と同時、宙を飛ぶマスコットのようなウサギの群れが矢場杉産業の社員たちに飛び掛かった。
『バニLOVE1000%』、『ロリ爆乳は夢じゃない』『妹に萌えない兄など存在しない』などという文字が描かれたTシャツ姿の男たちの首元にふわふわと飛び乗ったウサギたちは、その長い前歯で男たちの頸動脈を噛み千切った。
断末魔の悲鳴と共に、フロア全体に血の雨が降り注ぐ。
『メグは魔法少女のなんたるかを分かっていないのです! あなたがその《ギフト》を手にしたときの願いを忘れたのですか!? あなたの《ギフト》は、大きなお友達を喜ばせれば喜ばせるほど真価を発揮するのです! 媚びなさい! 乳を揺らして尻を突き出すのです! 声はもっと甘甘に! さあ、全ての童貞を萌やし尽くすのです!』
ぽん。
ぽん。
ぽぽぽぽ。
ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ。
無限に増殖していく白い毛皮の群れがフロア一帯を覆いつくし、男たちの悲鳴を飲み込んでいく。
「うさぎさんは~。寂しいと死んじゃうんだゾ♪」
きゃるん、と決めポーズを一つ。
「
その真っ白な洪水が引いた後には、ただ赤黒い静寂のみが残った。
いや。
蚊の鳴くような声で発された、メグの呟きが一つ。
「…………死にてー」
一方、その頃。
「バブみを感じて!!」
「オギャりたい!!」
左右から同時に襲い掛かったスキンヘッドの男二人を――。
「JOLTカウンター!!」
一瞬で二人に分身したツインテールの幼女が、正面から同時に殴り抜いた。
「ば、ばかな……分裂する幼女、だと……」
「さ、左右から、耳元で囁いて、ほ、し――」
「ふん。姉の愛は妹にのみ向けられるもの。お前たちには右の頬を差し出す価値もないのです」
ぱんぱんとスカートの端を払う幼女は、ふと何かを感じたように虚空へと視線を向けた。
「ふふふのふ。レーとメグもようやく本領を発揮してきたみたいなのです。二人の心配はもう要らなそうですね」
満足そうに頷いた幼女は、腰に両手を当て、目の前に立ちはだかる扉を見上げた。
『課長室』
矢場杉産業特異課課長――オレガ・クロ・マークの巣であった。
「さあ。おねーちゃんも自分の使命を果たすとするのです」
精一杯背伸びをして取っ手に手をかけ、ぎしぎしと軋む扉を開ける。
その瞬間、幼女の顔を打ったのは、濃い血の香りであった。
「…………え?」
薄暗い部屋の中に、見えたものは。
ロケットおっぱいをパンツスーツの中に押し込めた美貌のサド女――デス代。
日本人離れした堀の深い顔立ちをしたキモオタマッチョ――ボック。
そして、二人の超人を統べる人類置換計画の元締め――マーク。
その三人が、血塗れで倒れ伏す姿であった。
「やっと来たんだね、おねーちゃん」
そして、血の海の中で光を放つ、ピンクのレオタード。
それを着た、メンヘラ女の姿。
「ユ、ユウ……?」
「私ね、やっと分かったの」
ハイライトの消えた瞳で幼女を見下ろすユウが、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
「《ギフト》っていう言い方が、ずっと引っかかってた。だって、《
「な、なんの話を、して――」
「お前が《ギフトメーカー》だったんだな」
ぞっとするほど冷たい声が、ユウの口から放たれた。
「お前を、滅ぼす」
史上最強の兵器、『TOVIC』が、禍々しい光を放った。
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