祖父母の写真
三枝 優
古い写真の中
空港の中は、ざわざわと賑やかである。
みな、大きな荷物を引きずって右往左往している。
そういうソフィアも、これから宇宙船に乗るために大きな荷物を抱えている。
火星にある全寮制の高校に入学することになったのだ。
両親からは、別れ際に泣かれてしまった。
それなら、全寮制の学校なんか入れなきゃいいのに。
船を待つ間、両親からもらった祖父母の写真を見る。
祖父母が友人と思われる人々に囲まれて笑っている。
ソフィアにとって、祖父母はヒーローだった。
生まれる前に死んでしまったが、一代で宇宙にも名だたる企業を起こしたこと。
それに、いろいろなテクノロジーを開発して、地球が宇宙に出ていくことができるようにしたこと。
それだけではなく・・
「隣、座ってもいいかしら?」
突然、声をかけられた。
「あ、はい」
荷物を引き寄せて、ソフィアは言った。
隣りに座ったのは、黒いコートをまとった妖艶な美女。
20代後半か30代前半くらいだろうか。
”うわあ、すごい美人。女優さんみたい”
そう思って、写真に視線を戻した。
”あれ?”
祖父母の斜め後ろに立っている女性。
思わず、隣を見る。
”・・・そっくり”
隣の女性と、祖父母の写真に写っている女性。
非常によく似ている。うり二つである。
だが・・・、年齢がおかしい。
「私がどうかしたかしら?」
隣の女性が、ほほえみながら優しく聞いてきた。
「え・・・いえ、なんでもないんです」
ソフィアは、恥ずかしくて顔を赤らめながら答えた。
すると、急にその女性は嬉しそうにはずんだ声で言った。
「あら!懐かしい写真。たかひろとミアちゃんじゃない」
ソフィアは驚いた。
祖父母の名前を知っているこの女性・・一体何者?
「じゃあ、あなたがソフィアちゃんね。よろしく」
ウィンクしてくる女性。
「あ・・あの。祖父母とお知り合いなんですか?」
「あなたも火星に行くんでしょう?」
「あ・・はい」
「私も火星に行くの。船の中でおしゃべりしましょう?いろいろ教えてア・ゲ・ル♡」
「え・・・えぇ・・」
「そろそろ、チェックインの時間よ。行きましょ」
美女に手を握られて、ソフィアはチェックインカウンターに向かう。
なにやら、この旅が急に賑やかなものとなった。
(了)
祖父母の写真 三枝 優 @7487sakuya
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