『お由紀と 与作・・・』

矢田誠一

第1話

与作は まるで

今にも 雪女が 出て来そうな

真っ暗い

寒い道を

峠を 越す為に

一人で 歩いていた・・・・。




与作の 仕事は 絵描き・・・・・。

隣の 隣の 街まで、

美人画を 描く事を 頼まれ、





峠を 越していた・・・・。

背に 大きな

道具を



背負って・・・・・。



季節は 2月の 初旬。



山々の 峠は まだ 寒く

とぼとぼと 歩いていた

与作であった・・・。



そこへ

ヒュー ゥゥゥゥゥ・・・・・・・。



雪が チラつき 始めた・・・。



どんどんと 寒く

辺りは 白くなって行く・・・・・。





しかし 与作は 行かねばならぬ・・。



隣の 隣街の 美人を 描く 為に・・・・。

手が 凍えて 来る。



足も てついて来る・・・・・。




峠を 越え

少し 山と 山の



小さな 盆地らしきに 出た・・・・・。



灯りが 一つだけ ついていた。



山々の 間の



温泉宿だった・・・・・。



ガラガラ・・・。




誰も出て来ない・・・・・。



与作は、

「たのもう!!・・・」



と 一声・・・。

辺りは



雪が



ゴウゴウと



積もっていた・・・・・。



背に背負った



荷を 降ろし、

ドカッと



木の床に 腰かけた・・・。



『もし・・・・・・』




顔の 青白い



20半ばの 女が



赤い 暖簾のれんを くぐって



出て来た・・・・・。




『風呂に 入りたいの じゃが・・



一晩泊めてくれんか・・・・・。』



与作は 言った・・・。



由紀と 名乗る 女は・・・、

はい・・・・・。



『どうぞ こちらへ・・・・・』と



風呂に 案内してくれた・・・・・。



由紀は



与作が 石畳の 露天風呂へ



入ってる





与作の 服を たたんでいた・・・・・。



少し 濡れた


重い 布団の



その 宿の 一室の



鶴の間に 通された・・・・・。





与作は


「今日は 疲れたから



少し 食べて



寝るから・・・」と



お代を 払い



徳利に 2本飲んで・・・・



寝る つもりだった・・・・。


由紀は



鶴の間から



動かず、



与作を 立って 見ていた・・・・・。



「どうした・・?」





「何の用だ・・?」



「隣の 隣街まで



絵を 描きに 行くと、



近くの 者より 聞いたのですが、



私も 描いては くれませんか・・・・・?」と・・・



はらりと



上半身を



脱いだ・・・。



与作は、

『わかった』と



顔彩と言う



固まった 絵の具と




御猪口おちょこに、


水を 入れ、

描き始めた・・・・・。




ものの 30分、



由紀の



美人画は 出来た・・・。



「どうも・・」



「お代は 結構です。」



『これで・・・・・』



と・・




「いやいや、



いかんいかん



代は とって置いてくれ」と



宿代を



渡した・・・・・。



『これで 寝る』




ささ



「帰ってくれ」。




すー コトンと



木のふすまの 戸が



閉められ、



お由紀は 去った・・・。




そして





午前



二時半・・・



与作が



うなされて起きると



由紀が




立って いるでは



ないか・・・・・





私の 描いた 絵かと 思って



さわってみると、




冷たい・・・・。





かじかみそうだ・・・・・。



「私は 一人で ございます・・・。」



「隣・・宜しいですか・・」





由紀・・・。





しかし



冷たい・・・・・。



濡れた 布団が びっしゃりと なった・・・。



「お由紀さん・・・・・」と、

一頻り 燃えた後 ・・



由紀は 去り、

朝が 来た・・・。


『では、 行く。』



と 与作が、旅支度を



始めると、

もう一晩



お泊まりになっては・・・・・



と 由紀・・・。



『いや 行かねば・・』



由紀は、

『美人は 私 一人で 良くって・・・?』



と・・・?



「いや、」



与作は




もう一晩 泊まった・・・・。








そうこう している内



2週間 3週間・・・。




二人での

毎日の 様な 酒盛りと ・・・・・



由紀は



少し ほほえんだ・・・。

しかし・・・。



与作の 元の 街での 素性を



知ると、

怒ったかの 様に、

雪が 降り始めた。

そして、

「帰って ください。」と、



出刃を 持ち、

与作を



切り刻もうと した・・・。



外は 大雪。

与作は 出るに 出られず、

もう少しで

由紀に 切り刻まれるところ だった・・・。





戸を 閉め 与作が ふるえていると、

2日前に 庭で、

生かした 小さな 草木が、


話し 掛けてきた・・・。



与作 与作、

こちらから・・・。



と 窓の下から 誘い出し、

与作を 外に 出させた・・・。




与作は 出る時 忘れ物をし、



また 窓の 下から 入って、



竹の つつの 水筒を 取ろうとすると、










ニタニタ笑った






お由紀が いた・・・・・。









ゴーーーー・・・・・。



『切り刻んで やる・・・・・。』








と・・・・。

与作は、




お由紀に



これを やる と・・・





煙草の 火の




火打石を




渡すと



お由紀は 消え去った・・・・・。




そして、




そこには、



青白い、

今にも 水に



溶け そうな



お由紀の



心臓が

床に

水と 一緒に 寝転がって いた・・・・。






与作は 辺りを、 綺麗に 片付け、

お由紀の 青白い 心臓に、

『ありがとう』と



告げると



辺りは 3月の 初旬・・・。




おおいぬふぐりが 咲く、



野山へと 変わって行った・・・。




お由紀の 青い心臓は



おおいぬふぐりの 花として



咲いたそうな・・・。



おおいぬふぐりの 花言葉は、




忠実 信頼 清らかさ



だそう・・・。




お由紀は



与作の 裏切りが






気に入らなかった みたいですね・・・。



そう、

与作は 元の街に 嫁と 子供が






二人いたそ う な 。

終わり。

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『お由紀と 与作・・・』 矢田誠一 @yattyann

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