夜明けと新しい風

 王都の長い長い夜が明けた。

 結局、私がニコラスの魔石を吸収したことで、彼の存在はこの地面に染み付いた黒い影のみとなった。あっけないというか……足でニコラスのシミを擦ると、灰のように舞い上がり空高く消えて行った。

 ニコラスは私のことを自分と同じ魔人と呼んでいたけど、ニコラスとの共通点は体内に魔石があるということだけ。それを魔人と呼ぶなら、私も魔人かもしれないけど……ニコラスと同等な存在なのは嫌悪感がする。それに、単純に魔人と呼ばれるのは嫌なんだけど。

 瓦礫の向こうからオスカーの声が聞こえた。


「カエデ! どこだ! 無事か!」

「あ、オスカー、ここ、ここ。無事無事」

「普通に無事そうだな」


 瓦礫の向こうからオスカーの安堵しながら言うと、オジニャンコが私の元まで飛んでくる。オジニャンコはしばらく残っていた黒い影を無表情で見下ろすと、礼を言った。


【セオドリックの敵討ち、感謝する】

「オジニャンコが殺したかった?」

【いや、今となって消えてくれればどうでもよい】

「それならよかった」


 辺りを見回すと、ジャドール侯爵邸はほぼ崩壊している。結構暴れたし、まぁ……そうなるよね。

 ニコラスの魔石を身体に取り入れた今、私の中にあった魔石が変化したのは感じた。不思議とこの体内にある魔石のエネルギーをどう使えるのかも理解している。ついにちゃんと理解できるマジカルパワーだ。この力を使えば日本に帰還できる可能性は高い。


【カエデの中の魔石も完全に源の魔石に変化した。自身でも感じるのであろう】

「うん……」


 胸元に手を当て答えると、ギンが不安そうに私の顔を覗き込む。


「だえ~」

「ギンちゃん」


 そう、日本に帰るということはギンちゃんたちともお別れということ。正直、それは嫌だ。

 ミニチズコが私の顔を撫でながら言う。


「カエデ、時間はまだあるのだからゆっくり考えればいいんじゃないの?」

「まぁ……そうだけど」


 その後……権力を取り返した王室により多頭蛇に関係していた貴族や組織は、数週間を掛けて多くが捕縛された。

 捕縛された中には、協力していたのが多頭蛇だとは知らなかったり脅されていたりしていた者もいたらしい。彼らは爵位の降格と罰金で済んだが、大半が極刑になった。

 こちらの処刑は未だに大衆の前で執行されているから、連日の公開処刑のせいでしばらく王都はお祭り騒ぎだった。

 私は、この件に関してはニコラスの討伐以降はノータッチだ。政治的な絡みもありそうだったし、オスカーに一任した。だって、めんどくさいじゃん? 冒険者ギルドの依頼がしばらく逃げた貴族を捕まえる賞金稼ぎと化していて笑ったけどね。

 王城に呼び出され王様から伯爵の爵位を授けると提案されたけど、その場で断った。だって貴族スプラッターの後じゃん? 誰があんな毎日処刑シーンを見て貴族になりたいと思うん? 超絶お断りしておいた。

 王様は驚いていたけど、オスカーはカエデらしいと笑っていた。他の貴族は失礼とかほざいていたけど、王様が一喝すると黙っていた。なんか王様の私を見る目が少年のようにキラキラしていて、むず痒かった。

 その後、王都が多頭蛇の爪痕から復興する間、私はイーサンとともに双子の家族探しの旅に出た。

 手始めに双子が住んでいたという村を訪れたが、完全に廃村となり果てていた。  

 双子はいろいろとその場所に思い出があったのだろう……すでに月日が経過していたからか、草に生い茂った家屋に双子は涙目になっていた。


「伯爵の領に向かおう。そこなら何か情報があるかもしれないから」


 なんとなく故郷を失った双子を自分と重ね声を掛けた。私も急に故郷が恋しくなった。

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