迷惑な英雄伝

 数日後、モール伯爵領へと到着する。

 モール伯爵は完全中立派で粛清を逃れた貴族の一人だ。モール伯爵領は王都よりも田舎だけど、ガーザよりも栄えている街だった。

 とりあえず手始めに冒険者ギルドを訪れたが、失敗したかもしれない。

 いや、確実に失敗した。

 冒険者ギルドに入った瞬間、冒険者たちからは以前のような敵意の視線ではなく尊敬のまなざしを向けられた。

 何……?

 とりあえず受付に声を掛ける。


「こんにちは」

「……わぁ! カエデ様」

「へ? 知り合いじゃないよね?」

「はい。初めてお会いします」

「なんで、私を知ってんの?」


 受付嬢が目を輝かせながら満面の笑みで答える。


「王都の英雄勇者、光の使徒カエデ様ですね」

「……何、その二つ名……何かの間違いじゃ?」

「いいえ。間違いではございません。王国中に陛下からの御触れが配られています。こちらを見てください」


 受付嬢に見せられた書状を見てギョッとする。

 そこには【英雄勇者、神の使徒カエデ様】と書いてあり、ご丁寧に私の似顔までが晒されていた。発行人は王城だ。あの王様、何してんの! 


「ねぇ……これって冒険者ギルドの全部に配られてんの?」

「冒険者ギルドだけではございません。国内の全てのギルドと領地に配布されております」

「えええ」


 やめて。本当にやめて。こんなの嫌がらせ以外のなにものでもないんだけど!

 がっくりしていると、双子が嬉しそうに声を揃える。


「カエデ、凄い! 有名人!」

「ああ、なんだかお前も大変だな……」


 イーサンが同情した表情で言う。

 辺りに聞き耳を立てれば、聞こえる。私の不幸が。


「光の勇者カエデだ」

「おう、あれが空をも飛び巨大化するという使徒様か。すげぇな」


 あー、もう! いろんな噂がごちゃ混ぜになってんじゃん!

 急いでタオルを被り、ギンに収納していたサングラスをつける。

 イーサンが訝しげに尋ねる。


「なんだよ、その怪しい格好は」

「変装だって! しばらく外に出る間はこの格好の予定だから、慣れて」


 行くところ行くところ勇者と指差されるのは勘弁だから!


「あ、あの……それで本日のご用件は?」


 受付嬢が遠慮気味に尋ねる。


「えーと、近くの村が一年以上前に賊に襲われていて。その村の生き残りを探しているんだけど、何か情報はあるかなって」


 受付嬢に地図を見せながら双子の村だった場所を指差す。


「ああ、こちらの村ですね。伯爵様が当時の生き残りの者を保護したと聞きました。役所に尋ねれば、何か情報はあると思います」

「ん。ありがとう」


 イーサンと双子と共に伯爵領の役所へと向かう。

 役所に入る前にイーサンに呆れながら注意される。


「おい、カエデ。役所の中でもそのタオルと目の黒いのをつけたままにするのか?」

「だって、絶対にここにもあの御触れを配られているんでしょ? 嫌なんだけど」

「俺は注意したからな」


 役所に入ってすぐに兵士に止められる。


「被り物は取れ」

「えええ」

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