メインディッシュ
その言葉は紛れもなく私から出たけど、私の声ではなかった。
走り出すと、あっという間にニコラスの前に到着。顔面を力の限り殴るとニコラスが宙を舞いながら飛んだ。間を置かずにすぐにそれを追い掛け、空中で腹を殴るとニコラスの口から血が飛び散った。
ニコラスは地面に強く打ち付けながらも、すぐに立ち上がり、血の付いた口と鼻を拭う。
「き、貴様も魔人だったのか……」
「そんなの知らない」
再び走り出し、今度はニコラスの首を殴ると、首が折れて頭が後ろに落ちた。これで、死んだ?
後ろに首を折ったままのニコラスから言葉が発せられる。
「ま、待て。話をしよう」
「なんで死んでないん?」
首の骨は折れている。どうやってまだ生きてるん?
ニコラスに再び光の攻撃をされ、目を閉じてしまう。
次に目を開けると、ニコラスが走ってどこかに逃げる後ろ姿が見えた。
「は? なんで逃げるん?」
めんどくさいと思っていると、オスカーの声が聞こえた。
「カ、カエデ……なのか?」
何、その幽霊でも見たかのような顔は?
「ん。別人に見えんの?」
「い、いや……」
「それよりニコラスはどこに向かったの?」
「あの方向はジャドール侯爵邸であろう」
「そうなんだ……」
侯爵邸はここからそう遠くない。追いかけて殺すか。
ニコラスをどうやって殺すかだけに集中していると、頭の中でオジニャンコの声が聞こえた。
【カエデ……魔石に感情を呑み込まれるでない】
魔石の感情って……まるで生物じゃん。そんなのが体内にあるって、まるで寄生虫じゃん。でも、吞み込まれているのとは違う。どちらかといえば、融合していると言った方が正解なのかもしれない……。
「私は平常心だよ。それより、オハギの片耳が取れているんだけど」
ニコラスの光の攻撃のせいで、どうやらオハギは耳が片方削げてしまったようだ。オジニャンコの手を見れば、爛れて赤く変色していた。二匹でオスカーを光の攻撃から守ろうとしたみたいだ。
【大したことはない。すぐに癒える】
「うん。でも、オスカーの肩の怪我は赤黒い魔石にやられたんじゃないの?」
肩を押さえながら私から目を離さないオスカーを指差しながら言う。
【魔石はもう抜いた】
「それなら、大丈夫だね。じゃあ、私は行くね」
【カエデ、忘れるな。吞み込まれるでない】
オジニャンコの言葉は聞こえていたけど、心には響かなかった。
今まで走ったことのない速度で駆けながら侯爵邸を目指す。
侯爵邸に到着、ニコラスの姿が見えないので特大の石バンバンで屋敷の半分をぶち壊す。
中から使用人だろう叫び声が聞こえたけど、全く心に響かない。まるで慌てる蟻を見るかのような感情で逃げる侯爵邸の使用人を眺める。
しばらく侯爵邸の破壊活動をしていたら、ようやくニコラスが出てきた。ゾンビたちと一緒に。ニコラスの折れていた首は元に戻したようだ。
「出て来るの遅いし」
「貴様が魔人なら、公平に魔人同士の闘いをするまでだ」
魔人同士の闘いって? 私、魔人じゃないし。それに、公平性でいうのならゾンビ連れてきてんのアウトじゃね?
急にニコラスが上半身の服を破る。露わになったのは、肌が見えないほど埋め込まれた赤い魔石、そして赤黒い魔石だった。
「気持ち悪っ」
「そんなこと言っていられるのも今のうちだな」
ニコラスが赤黒い液を口に流し込むと、身体が倍ほどに膨れた。何? 妖精ドーピング? 気持ち悪い魔石が密集する下に別の魔石の存在を感じた。ああ、これって紫の魔石? 大きい紫の魔石……でも私のより小さい。
「では、行くぞ! 黒髪!」
ニコラスが目の前まで迫り、拳を振り落としたのを手の平で受け止める。驚いた表情のニコラスと目を合わせたまま、拳を握り潰す。
「ぐわあああ」
顔を歪めたニコラスの腕を握り、引きちぎる。倒れたニコラスの上に乗り反対の腕も引きちぎる。
【ははは。美味しそう】
ん? 美味しそう?
何故か無性にニコラスの紫の魔石を食べたいという気持ちで頭が占領される。
食べたい食べたい食べたい
鳥の下処理をするように、ニコラスに埋め込まれた赤い魔石と赤黒い魔石を毟る。毟る度に手の平から私の中に魔石が侵入してきたけど気にならない、というより快感すらする。
魔石を全部毟り終わると、おもむろにニコラスの腹の中に素手を突っ込んだ。ああ、これだ、これが欲しい。紫の魔石を握るとニコラスが叫ぶ。
「や、やめろ! やめてくれ!」
「なんで?」
ニコラスを真顔で見ながら言うと、そのまま紫の魔石を身体から引きちぎった。
これだ、これが食べたい。
魔石を口に入れよとしたらギンの声が聞こえた。
「カエデ~」
「……ギンちゃん?」
ギンと私、全身に付着した血の量に目を見開く。
あれ? 待って。私、何してんの?
「え? この跨ってんのニコラスなん?」
何、このドーピングマッチョ。気持ち悪っ。
急に正気に戻ると、手の平から紫の魔石が体内に入っていくのが見えた。
「ぎょえええ」
その瞬間、ニコラスの身体から大量の光が溢れ、上空を照らした。
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