グロ耐性
イーサンが指差す方を見れば、地下牢で私を殴ろうとした奴を含む騎士数人と私兵たちがイーサンたちとバトル中だった。怪我の具合からイーサンと双子の優勢っぽい。地下まで響いていた音は双子の炎の魔法なのかあちらこちらから火が上がっていた。
「領主邸、炎上してるじゃん」
「カエデ、気を付けろ。そいつらはもう騎士でも私兵でもない」
プカプカと浮くシャボン玉の上で体勢を変え騎士たちを見れば、全員の注目の的だった。
「何? こいつら賊ってこと?」
「黙れ! 我らは賊ではない。正しい政権を支持しているだけだ!」
憤りを隠しきれないように1人の騎士が声を荒げる。
正しい政権……ネルソンの情報で聞いた政治の話? 騎士たちは至極真剣な顔で正義を騙り始めたけど、つじつまが合わない。
首を傾げながら騎士たちを見る。うーん、嘘を言っている感じはしないんだけど……
「なんかおかしくね?」
唸っていると、そんな私の態度に腹を立て騎士の一人が剣を投げてくる。もちろんスパキラ剣がこれでもかというほどに粉々に剣を粉砕した。
「いきなり剣を投げるのやめて」
「賊はお前たちであろう!」
「えぇぇ。じゃあ、なんで若い女性たちを牢から誘拐したん?」
「我らはそんなことをしていない!」
「嘘じゃん! 証人もいるし!」
最奥にいる変な動きをする男を見れば、例の私を殴ろうとした騎士だった。他の騎士は真剣な表情なのに、あいつだけさっきから動きがおかしい。窓際に手を掛けてるんだけど……何、逃げる気なん?
オハギがピンと尻尾を立てた。
「オハギの獲物がいるの!」
(やっぱりあいつが槍の奴?)
「そうなの!」
(ん。じゃあ、約束通り燃やしていいよ)
こっちを殺そうとした奴に情けなどかけない。
オハギが嬉しそうに走り出すと、男は窓から半身を出しているところだった。
「ほら、後ろ。逃げたしてんじゃん!」
指をさした方向を騎士たちの数人が振り向く中、窓を越え逃げだそうとしていた男が焦った声を出し止まる。
「ヴゥ―」
ユキちゃんだ!
窓の外にいたユキのおかげで、逃げ出せずに窓枠に片足を乗せたまま硬直した男をオハギの黒煙のクリオネが襲い部屋へと引きずり戻す。
ああ、グロい時間じゃん。
(チズコ、双子に見えないようにできる?)
「任せて。ギン、あなたも手伝いなさい」
「だえ!」
ギンがチズコの本体を出すと、部屋の中にシャボン玉が無数に飛んだ。その玉の中にはギンから出たたくさんの光りが舞い始めた。なんか、普通に綺麗……。
まるでスノードームのようなシャボン玉が双子の視界をグロタイムから守ると、黒鉛のクリオネの捕食が始まった。
「あん、これは強力ね。さすがあの方と繋がりがある妖精ね。カエデもそう思うでしょ?」
チズコがエグイ肉の軋む音と男の叫びが響く中で感心しながら尋ねてくるが……チズコ、カエデちゃんはそれどころじゃないから! オハギが見て見てと手を振るここは残虐の特等席、勘弁して。
正直双子も冒険者だし、グロ耐性は必要だけど思うけど……大の大人の騎士たちだってこの捕食に絶望して嘔吐している。この光景は以前双子たちが見たオスカーの親指切り落としの比ではないほどのグロさだから! 双子にはまだ早い、と勝手に判断する。
クリオネがちゅうちゅうと男の中身を吸い出したところで騎士たちからもらいゲロをしそうになる。オハギ、もうクリオネを使うの禁止だから!
クリオネの捕食が終了するころには正義を掲げ反乱をした騎士も大人しくなり抵抗を止めた。
恐ろしい時間だったし……。
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