何してるん?

「そんな言い訳が通じるわけないじゃん」

「そんなの父上に頼めば――」

「毒で死にかけているのに? その毒も高い確率でルカが盛ったんじゃね?」

「き、貴族は助け合うんだ。お前のポーションを使えば――」


 リスのおっさんが私の腕を掴みながら言う。

 悪意はないらしい。ギンちゃんを見てもリスのおっさんの手を見ているだけだった。リスのおっさんの手を払いながら言い放つ。


「私は別に貴族じゃないし、そんなのは知らない」


 言い返すことがなくなったのか、リスのおっさんが黙る。その表情は子供の癇癪前の顔だし。何、こいつ……大きな子供じゃん。


「オシリス様、先に謝ります」


 そう言うと鈍い音がするほど力いっぱいに老騎士がリスのおっさんを殴り、同じ拳で自分も殴った。せっかく不思議水で2人とも治したのに何してんの?

 殴られた勢いで尻もちをついたリスのおっさんが泣きそうな顔をしながら頬に手を当てる。


「爺、痛い。なんで?」

「我らがオシリス様を甘やかしすぎたのです。済まない」

「いや、私に謝られても困るんだけど」


 シーラたちや牢に入っていた囚人や冒険者もどうすればいいか分からずに互いを見合う。

 少しの沈黙後にドンと音がして天井からパラパラと埃が落ちる。えぇぇ。今度は何?

 再びドンドンと上から音が響く。急いで地下牢から脱出しようとしたけど、他の人たちがパニックになり全員が唯一の出入り口へと走った。

 前方から閉められた扉を蹴る音はするけど、扉は開かないよう。スパキラ剣なら一発だけど人がめっちゃ邪魔で扉まで行けないし。


「ギンちゃん、ビリビリで気絶させられる?」

「悪意がないだえ~」


 うん。あるのはパニックだけで悪意ではない。

 問題の天井を見上げる。ん、やるか。


「オハギ!」

「燃やすの?」

「ん。燃やして!」


 チズコにシャボン玉の壁を出してもらい、シーラたちを含む誰もがオハギの側に近寄れないようにする。だって巻き込まれたら干物になるし。

 シーラは困惑した表情でこっちを見ているけど、説明する時間はないので軽く手だけを振る。

 オハギが1人で集中すると、モコモコと黒煙が形を作り始める。今回は龍でも兎でもなく巨大クリオネだし。ダンジョンのクリオネ妖精から感化された?

 クリオネの頭が天井につくと、頭が割れ無数の蝕手が伸びるかのように天井に吸いつく。ああ、ダンジョンでのエグイ捕食シーンを思い出すじゃん!

 クリオネ全体から青黒い炎が滲み出ると一気に天井に穴を空け、青黒い炎が収まるとクリオネは小さく縮みそのまま消えた。


「オハギ、お疲れ」

「オハギが空けたの!」


 尻尾をピンと張り天井を前足で指すオハギを撫でる。


「うんうん。オハギ、凄い」


 早速チズコのシャボン玉に乗り、上の階へと上昇すると剣を構えたイーサンと双子がいた。


「凄い偶然じゃん! 何してるん?」

「お前! 呑気に『何してるん?』ってなんだよ! 今の状況を見ろって!」




**

いつもご愛読ありがとうございます。

本日、5巻の発売日となります。

連続投稿はここまでとし、今後はいつものペースに戻ります。

投稿にお付き合いいただき、ありがとうございます。

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