すべて己の行い

「この上が地下牢だから」


 鉱石を取り除いて土の魔石で埋めていた地下牢に繋がる始めに降りて来た場所へ到着する。


「おい! お前! 聞いているのか! 僕を誰だと思っている! ここから出せ!」


 たぶんそんなことを言いながら看護カプセルを叩き叫ぶリスのおっさん。声は聞こえないけど。五月蠅そうなのは分かる。


「本当に全く声が聞こえないのね」


 シーラがシャボン玉を触りながら感心する。

 リスのおっさんは数分前に目覚めてからというもの、無駄に元気いっぱい不満を垂れ流し始めたのでチズコに頼み看護カプセルをミュート仕様にした。だってうるさいじゃん。

 何度もシャボン玉を叩き始めたリスのおっさんの見たくもない唇の動き見る感じ、反逆罪や極刑にしてやるとかそんな感じのことを言っているっぽい。


「やっぱりここに捨てていこうかな」

「カエデちゃんも辛辣な冗談を言うのね」

「割と本気なんだけど」


 たぶん9割くらい捨てて行こうかと心が揺らいでいる。


「私もこの人は苦手だけど、一応貴族だから、仕方ないわね」


 シーラが苦笑いしながらリスのおっさんにもう少し我慢して下さいと身振り手振りで伝えるけど、見ているのは胸だけでシーラの伝えたい事なんか全然聞いてないし。 

 シーラ胸を見ながらニヤニヤ何かを言うリスのおっさん、あまりにも本能のまま動いているのは逆に感心するけど……シーラの胸を見ていたおっさんが私の胸を見て鼻で笑う。こいつ……。


「これ、見て」


 シャボン玉をバンバンと叩きリスのおっさんにしか見えないようにオスカーの書状を見せる。おっさんはギンちゃんの光に照らされた書状を途中まで読み、驚愕の顔で書状と私を何度も見返す。


「分かった?」


 書状の重要な権力者の部分を指差し、静かにするようにと人差し指を唇に持って行けばリスのおっさんはシャボン玉を叩くのも中で叫ぶのもやめた。さすが権力。

 シーラが訝し気に書状のことを尋ねる。


「それは何かしら?」

「秘密兵器。これでしばらくは黙っていると思うから、さっさとここを出よう」

「カエデちゃん……それ……」


 書状を胸元に入れていると腕についた魔力封じの腕輪にシーラが気付く。ああ、こんなのつけられていたの忘れてた。スパキラ剣を出しサッと腕輪を切り離し、ポケットに入れる。早い動作だったので多分シーラにしか目撃されていない。シーラと目を合わせ歯を見せる。


「早くここから出よう」

「え、ええ……」


 シーラはいろいろ質問があるような顔をしているけど、今はとにかくここから脱出するほうが先じゃん。

 地下牢に繋がる土の魔石で埋めていた天井を石バンバンでぶち抜くと、ボロボロと土が降り天井が崩れると冒険者たちもシーラも呆気にとられてた。

 

(チズコ、上に行きたいからシャボン玉をよろしく)

「任せて」


 とりあえず、チズコのシャボン玉に乗って上へと浮上する。


 無事に下から這い上がったのはいいけど、牢に置いて行ったカエデ像の近くに槍が転がってるのはなんで?

 シーラたちが上がって来る前に槍を確認すればどこにでもあるような槍だった。見れば、カエデ像の胸部分には槍から受けた傷があった。誰かが投げたん? 普通に殺す気じゃん。


「酷くね?」

「だえ~」


 オハギが槍の匂いを嗅ぐと尻尾を立てた。


「何か分かった」

「悪い奴の臭いがするの! 燃やすの?」

「うん。見つけたら燃やしていいよ」


 人を殺そうとしたんだから、自分だって狙われる覚悟くらいあるでしょ。

 シーラたちも困惑しながらも無事にシャボン玉に乗って上がって来たので、気を取り直して牢の柵をスパキラ剣で切る。豆腐のように切れた。さすがスパキラ剣。


「ん。じゃあ、脱獄しよう」


 地下牢を進むとすぐに誰かが倒れているのが見えた。


「あ、老騎士じゃん」


 気を失っているのか、頭には後ろから殴られた痕がある。

 ミュート中の看護カプセルに入っているリスのおっさんがやけに身振り手振りをするので、チズコに頼んでミュートを消す。


「何?」

「爺!」


 リスのおっさんが心配そうに叫ぶ。


「老騎士のこと?」

「爺は無事なのか!」

「気を失ってるだけっぽいから待って」


 不思議水を頭にかけて老騎士の頬を叩くとハッと目を覚ました。


「大丈夫?」

「お前は……収容した冒険者か」

「爺!」

「貴様、オシリス様を――」


 老騎士が私をにらみながら言うので、睨み返す。


「勘弁して。こっちはわざわざアレを助けてここまで連れて来たんだし」

「爺、本当だ。ルカの反乱だ」


 ルカのせいだと喚き散らかすリスのおっさんを冷ややかな目で見る。自分がちゃんとしてないからじゃん?

 地下牢に収容されていた他の人たちの確認に行けば、男たちの方はそのままだったけど女たちは牢からいなくなっていた。主に若い女がいない。それでも解放された囚人は結構な人数で30人くらいいる。

 残った牢に入った人たちに尋ねれば、私兵に扮した賊だろう奴らと騎士の1人が別に地下牢に捕縛されていたリアル賊の囚人たちと若い女たちを根こそぎ連れて行ったという。残っているのはリスのおっさんに見せしめに収容された冒険者と、同じく理不尽な理由で入れられていたガーザの街の普通の住民たちだった。

 老騎士を殴ったのは、どうやら牢に入れられる前に私を2回殴ろうとした奴っぽい。


「爺! 犯罪者を逃がしたのか!」


 騒ぐリスのおっさんを睨む。


「ここに収容されてた若い女性って本当に犯罪者だったん? そんな感じはしなかったけど」

「僕に不敬を働いた女たちだ」

「は? どんな不敬?」

「僕の誘いを……」


 ごにょごにょと何か小声で言い始めたリスのおっさんの上目遣いがキツイ。


「なんて? 聞こえないんだけど」

「ルカが悪いんだ! ルカが全部悪いんだ!」


 えぇぇ。ルカは悪党だけど悪いのは自分じゃん。

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