荷物

 冒険者とシーラが完全に閉まった扉を剣や魔法で斬りつけるが、扉はすぐに修復して手も足も出ない。

 カンカンと音がしたので床を見れば、干物ルカの胸の多頭蛇タトゥーから次々と赤い魔石が落ち始めた。

 ガークが言うにはこれは魔力の源という魔石らしいけど、こんな使い方をするものなん?


「この赤い魔石のことを知ってる? ねぇ、オジニャンコ――」


 オジニャンコに尋ねようと振り返れば、毛繕いをしていた。1号と2号もいつの間にか消えてるし。

 毛繕いをする黒豹に声を掛ける。


「オハギ?」

「オハギなの!」


 オジニャンコ、肝心な質問をしたい時にどこかへ行くのやめて。


「カエデちゃん……」


 トングを使い赤い魔石を拾い袋に入れていると恐る恐るシーラが声を掛けてくる。たぶん、さっきの黒煙干物のせいでちょっとシーラと冒険者たちに怖がられている。分かる。カエデちゃんもあの干物化が怖いし。


「さっきの黒煙は魔法なの?」

「殺すべきじゃなかった?」

「ううん。間違った判断ではないわよ。安心して」

「ん。シーラはこの赤い魔石が何か分かる?」

「魔力の源の魔石ね。こんなに大量に身体に入れてよく生きていたわね」


 シーラが言うには魔力の源の魔石は魔力増幅もあり、今では禁止されてるがルカのように身体に取り込む冒険者も昔はいたという。それは新情報じゃん。


「勝手に身体に入るん?」

「埋め込むと聞いたわ。私も実際に見たのはこれが初めてよ。でも禁止されている理由はやり過ぎると魔力の器が足りずに心臓が爆発するからよ」


 怖いって! どうりでガークが赤い魔石のことを詳しく言わなかったわけだよね。私は別に1ミリもそんなことをやろうとは思わないけど、魔力を高めようと挑戦するアホが絶対いそう。

 袋の中に入った無数の赤い魔石を見る。これ、何度となく私の中に勝手に入っているんだけど、心臓大丈夫? 服の上から胸を触るとギンのこもった声が聞こえた。


「だえ~」

「あ、ごめんごめん」


 ポケットに入れたままのギンを出し、赤い魔石の袋を収納してもらう。

 シーラが入り口で未だ扉を突破しようと頑張る冒険者たちを見ながらため息をもらす。


「それより、今はどうにか脱出をしないとね。でも、入り口はあそこだけなのよ」

「ああ、それならなんにも問題はないから」

「え?」


 シーラにニカっと歯を見せる。

 入り口で扉を攻撃している冒険者たちを集め、別ルートがあると説明をする。


「その出口は地下牢だけど、ここからは出られるから」


 冒険者の男がリスのおっさんを指差しながら尋ねる。


「領主の息子はどうすんだ?」

「え? まだ生きてんの?」


 うつぶせ状態のリスのおっさんを蹴り仰向けにすれば息はまだあることに舌打ちをする。

 助けるかどうか迷ったけど、このリスのおっさんは性格がクソなだけで始末する価値もない。別に私は殺すほどの直接被害を受けてはいないし。牢に入ったのも自分の意思だし。

 リスのおっさんの顔を見ていると腹立つけど、死ぬと一応貴族ってやつだし面倒なことになりそう。本意じゃないけど助けるか。


「こいつ、臭いの!」

「臭いだえ~」


 えぇぇ。傷口を確認するフリをしてリスのおっさんの身体を調べる。

 ――あった。赤黒い魔石だ。

 胸元のポケットに入った瓶入りの魔石を回収。リスのおっさんの傷口に不思議水を掛けるが傷が深すぎる。これじゃすぐには歩けないじゃん。


(チズコ、お願いできる?)

「看護カプセルね。分かったわ」


 チズコのシャボン玉に不思議水を入れ、リスのおっさんをぶち込む。シーラたちは引いてるけど、もう知らないし。早くここを出たい。


「これで助かるから、たぶん」

「カエデちゃんは、その、いくつ秘密を隠し持っているのかしら」


 シーラがこぼれるように笑うと胸元からピピンが現れる。秘密を隠し持ってるのは私だけじゃないし。こんな状況でも冒険者の男たちはピピンを見るふりをしてシーラの胸を見ている。男の性だね。

 捕縛された私兵を見下ろすと怯えたように視線を逸らされる。え? なんか怖がってない? 


「シーラ、この私兵たちはどうする?」

「領主様に決めて頂かないと」


 領主か。生きてるといいけど。私兵の見張りは冒険者に任せる。

(シャボン玉を運ぶのはオハギに任せるから)

「分かったなの!」


 シャボン玉に入った気絶したリスのおっさんをオハギが引きずると全員でセイシュクの間を後にした。

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