クリオネとの交渉
全員にまた注目される。これ、カエデが勘違いしてた可能性が高い。犯人は帽子の女じゃなかったかも。
「思ったんだけど、そこまで泥棒はしてないって言い張るのなら膜の壁を通って見せて」
クリオネたちとの条件はあくまでかけらを泥棒した人間は解放しないだった。その定義は少し曖昧で、実際泥棒した人なのか現在かけらを持っている人なのか分からない。一応、嘘の脅しも加えておこう。
「ダンジョンが言うには、泥棒したやつが膜に触れると骨を砕くだって。それでもやんの?」
「は、はい」
帽子の女は頷きながら緊張した面持ちで歩き始めると、剣士の男が後ろから女を恐ろしい形相で掴もうとする。
(オハギ! 猫パンチやって!)
「パンチなの!」
オハギが剣士の手を猫パンチで薙ぎ払うと人差し指と中指が逆方向に曲がるのが見えた。剣士の男が跪きながら悶絶する間に帽子の女は膜の壁を通過する。
これで犯人が誰なのかはっきりした。よかった。
「おい!」
剣士の男が立ち上がり怒り任せにこちらに駆け、膜に顔からぶつかる。ついでにオハギのソフトタッチ猫キックも食らい鼻が折れる。
「クソがぁぁぁぁ」
剣士の男を見下ろしながら言う。
「だから、泥棒は通れないんだって」
帽子の女を見れば、地面を叩きながら暴言を吐く男を呆然と見ながら呟く。
「ヤコブ……どうして」
「どうして、だと? お前みたいな不細工が今まで夢を見れただけで感謝しろよ。お前が唯一役に立つ場所だったのによぉ」
口角を上げながら、二人のベッド事情とかを垂れ流す剣士の男に全員が顔を顰める。
【人族出た。早くちょうだい。約束】
クリオネたちが足元へ集まって2本目のキノコを催促する。
クズ男のせいで忘れそうになっていた2本目のキノコをクリオネたちに渡す。
「ヤコブ、やめて!」
「泣き顔も股の間と同じで締りねぇな」
あ? なんなん、こいつ……帽子の女は悔しそうに顔を伏せる。クリオネたちはこいつをゆっくり溶かすって話だった。
「お前たちもまんまと騙されて大した冒険者じゃねぇな。何が銀級だよ。銀級なのはそのぶら下がってるもんだけだろ。なぁ、シーラ?」
本性を隠す気ゼロのヤコブがうるさい。シーラのメロンは金級だし!
緑色のキノコをもう1本、クリオネたちに見せる。
「ねぇ、もう1本あげるからやってほしいことがあるんだけど」
クリオネたちとコソコソ交渉をすれば、満場一致で返事する。
【いいよ。やる】
その後、剣士の男が叫ぶ声に私以外の誰も振り返らずにダンジョンの出口へと向かった。
クリオネの捕食、結構エグかったし。私も振り返らずにそのまま走っておけばよかった。骨が砕けるエグい音を思い出しただけで、吐きそうだし。
◇◇◇
「それで、今の街の状況を教えてくれるか?」
白の間を抜けた冒険者たちはダンジョンから脱出できたことに安心したのか、最初に時よりも冷静に領主やギルド長のことを尋ねた。
「んー。領主は毒に侵されてて良くないって聞いた。ギルド長は無事にポーションを飲んで今は回復中――」
ネルソンの情報は伏せて、イーサンから聞いていたガーザの状況を伝えると全員が複雑な顔をした。特に自分たちの仲間がリスのおっさんにいいようにお使い係をさせられたことに腹を立てていた者もいた。
シーラがセイシュクの間で倒れている私兵を見てギョッとする。
「これ、まさか――」
「殺してないから。寝ているだけだし」
さっさと下りて来た牢の場所に戻ってそこから脱出しようとしたら、私兵と共にリスのおっさんがセイシュクの間になだれ込んできた。後ろにはルカもいる。めんどくさいのが来たし。
リスのおっさんが顔を描かくしながら言う。
「私兵の交代が異変を知らせたので来てみれば、お前は地下牢にいるはずだろう? 後ろは閉じ込められていた冒険者どもか?」
「そうだけど?」
「ふむ。どのようにして脱出したのだ?」
リスのおっさんが食い気味に尋ねると冒険者の1人が怒鳴り声を上げる。
「俺たちを野垂れ死にさせるつもりだったのか!」
「何をそんなに怒っているのだ? こちらもお前たちを気に掛けていたというのに」
リスのおっさんが首を傾げながら言う。やめて。首を傾げる仕草が可愛いのはギンちゃんとかだけだから、おっさんのぶりっ子なんか見たくないんだけど。呆れながらため息を吐く。
「気にかけてたって……食べ物も与えてなかったくせに何を言ってんの?」
「食べ物を与えていない? そんなことはないぞ。僕はちゃんとルカに命じていた」
リスのおっさんが本気で困惑しながら言う。あ、これ本当に何も知らなかったんじゃね?
全員の視線が後ろにいるルカに集まると、ルカが冒険者たちを一瞥してため息を吐き笑う。何?
「冒険者を全員助けることは失敗したようですね」
「ん? 冒険者は全員助けたけど?」
剣士の男は泥棒なんで冒険者ではないし。
「それは嘘ですね」
「何が嘘なん? じゃあ、誰がいないの? 食べ物も供給していないのに一体なんの心配をしてるん?」
なんかおかしくね?
冒険者1人が足りないからって何? という話じゃん? それなのにルカはあの泥棒剣士の姿がないのを確認しただけでなく、どうなったのかを聞き出そうとしているし。絶対怪しいじゃん。
無言のルカを真っ直ぐに見ながらもう一度尋ねる。
「それで、誰がいないって?」
「……カエデ、貴女は思っていたよりバカではないようだ」
「失礼じゃね? え!」
ルカが消えたと思ったら、スパキラ剣が突如前に出てギンのビリビリが炸裂した。目の前にはルカの顔のアップ。えぇぇ。嘘でしょ? 結構な距離があったんだけど。全然見えなかったんだけど!
「はっ。反応が早いな。さすが銀級か」
「不意打ちズルくね?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます