かけら
オハギがテクテクと歩き膜の壁を通るとギンちゃんもそれに続く。ギンちゃんとオハギも通れるじゃん。
「人族の出入りを禁止しているみたいだわね」
肩のミニチズコが言う。何それ、差別じゃん。
シーラが言うには、壁の膜は物理的攻撃も魔法攻撃も効かないそうだ。
(チズコ、どう思う? 行けそう?)
「やってみないと分からないわねぇ」
壁の膜をツンツンしていたらシーラと冒険者たちの質問攻めにあう。
「それで、どうやってここまで来たの? イーサンと双子は?」
「領主様は?」
「ギルド長は?」
全員が切羽詰まったように尋ねるが、なんだかみんな体力の限界のように覇気がなく息が上がっていた。
「もしかして、食べ物を貰ってなかったん?」
「配給は数日前から完全に止まった」
シーラの隣の男の冒険者が答える。
「えぇぇ。最悪じゃん。ちょっと待って」
持っている今すぐ食べられるものをシーラたちに投げる。人以外の物は通るのでよかった。全員が無我夢中に食べ物を口に入れる。ついでに容器に入れた不思議水も投げておいた。体力回復してもらわないとこっちも困るし。
(じゃあ、チズコ、よろしく)
「あたしの本体を出して」
シーラと冒険者たちが食事をする間、一斗缶をよっこらせと壁の膜の前に置く。
「あん、もう少し右よ」
「ここ?」
「あん、もっと膜に近づけて」
なんかちょいちょいチズコのいい方が卑猥じゃね?
シーラが心配そうに尋ねる。
「カエデちゃん……何をしているの?」
「あー、ちょっとこの壁をこれで通り抜けられるかなって……はは」
うん。分かってる。分かってるから全員で可哀相な子を見る目で見ないで。傍から見れば鉄の塊を持ってウロウロしている変人なのは分かっているから!
シーラと冒険者に背中を見せコソコソとチズコと会話をする。
チズコがばっちりだという位置に一斗缶を配置すれば、大きなシャボン玉が膨らみ壁の膜にくっついた。
シャボン玉はシーラたちにも見えるようで、全員が食べるのをやめて大きく膨らんだシャボン玉を凝視する。シーラからの説明を求められるような視線を無視する。今、いちいち説明しても意味がないし、時間の無駄じゃん。
チズコが唸りワサワサと葉を揺らすとこちらに振り向き低い声で言う。
「このままじゃ開けることはできないわよ」
「なんで?」
「あの人族の中にこのダンジョンの妖精の大切な物を盗んだ人がいるからよ」
ん? 大切な物は何かと聞けば妖精のかけらだと言う。このダンジョンには妖精がいるらしく、かけらを盗られたので人族が行き来出来ないようにダンジョンに膜の壁を張ったらしい。
「かけらって何?」
「妖精の心臓みたいなものよ。あたしもそれを奪われて、穢れた魔石と融合させられて化け物のようになったのよ」
あの赤黒い魔石のことか。オジニャンコもあれが魔物と妖精を融合した穢れたものだと言っていた。
「臭い石嫌い!」
「ギンも嫌いだえ~」
プンプンとギンとオハギが怒り始める。
「その妖精は自分でかけらを取り返しに来ないん?」
「その妖精は最後が近いのね。他の妖精が躍起になっているわ。これが彼ら流の取り返し方よ」
「ん? 彼ら?」
「このダンジョンは全体が無数の妖精で構成されているわ。最初に見た白い場所も含めて全てよ」
「えぇぇ」
全ての石や草花、苔に至るまで大小の妖精が宿っているらしい。だからさっきギンちゃんが苔を拒否したわけだ。納得。
とにかく、そのもうすぐ最後を迎える妖精の1人から冒険者がかけらを盗んだらしい。
シーラたちはダンジョンの調査をした際に持ち帰ってはいけないものを採取したん?
一斗缶を持ってシーラの前に立ち小声で尋ねる。
「シーラ、ダンジョンから何か取った?」
「え? 今回は魔物の調査だけで採取はしていないわ。それにここは領主様の持ち物よ。そんなことしたら投獄されるわよ」
どうやらシーラは関係ないようだ。他の冒険者に視線を移し、心の声でチズコに尋ねる。
(そのかけらを返せば、関係のない人は解放してくれるん?)
「そうねぇ。でも早くしないと人間は全員食って溶かすって囀りがたくさん聞こえるわね」
怖いって! 妖精たちにしか聞こえない会話で助かる。そんな囀り聞きたくないから。でも、ダンジョンの妖精たち一応話し合いには応じてくれているのでまだ救いがある。
なんやらここのダンジョンの妖精たちは、かけらを返してくれないなら死ぬまで壁の膜から出さないスタンスらしい。ゆっくり捕食しながら溶かして苦しませると囀っているらしい。怖いって。こんな感じの妖精たちがいるからこのダンジョンは封鎖されたんじゃん。絶対そうだって。
でも……これってかけらを返せば済む話じゃん。
**
本作5巻、2024.01.09刊行を予定しております。
早いところではすでに店頭やサイトに並んでいるようです。
連続投稿はもう少しだけ続きます……
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