来たんだけど……
暗い通路を何度も曲がると広い場所に出た。ここは、他と比べ明るい場所だ。もしかしてここはイーサンの地図にあった場所かもしれない。人の声がしたので一旦隠れる。
声の先を見れば、私兵のようだ。見張りならここはダンジョンの入り口の可能性が高い。当たりじゃん。ピピン、でかしたね。ピピンが天井からジャンプして飛行をしたのを手でキャッチしてポケットに戻す。また逃げ出さないようにポケットは閉める。
私兵は全員で4人、やる気がないのか座ってまったりしている。
「チズコ、あの眠りの歌をあの人たちやってくれる?」
「あら、あたしの美声を聞きたいって言いなさいよ」
「チズコノビセイガスゴクキキタイー」
「もっと褒めなさい!」
「メガミノビゼイキキタイー」
なんでこんなことをヤングコーンに言わされてんの?
誉め言葉にチズコが満足そうに葉っぱを揺らし何度もポーズを変えながら時間を食う。それはもういいから早く歌って!
「この位置はダメ。もう少しあたしを対象者に近付けて」
いや、これ以上前に出たら見つかるし……。
「オハギに任せるの!」
オハギがチズコの入った一斗缶を背中に乗せると私兵たちの方へ向かった。私から見たらただ単に豹が一斗缶を乗せて歩いている――いやいや、それも異様な光景なんだけど……私兵たちにオハギは視えない訳だから一斗缶が浮いているような光景だと思う。これ、大丈夫?
案の定、私兵の大声が聞こえる。
「おい! あの鉄の塊はなんだ!」
チズコ、早く歌え! 見れば、葉っぱを広げ歌う準備中のようだ。自由かよ!
「早く歌ってって!」
小声でそう言うと、肩に生えているミニチズコが返事をする。
「お披露目に万全を期すのは礼儀よ」
「分かったから! 早く」
ようやく歌い出したチズコの美声が辺りに響くと、警戒しながら一斗缶に近づいていた私兵が次々に倒れる。
一応、生死を確認。眠っているだけだ。ギルド長と同じで一日は眠ったままらしい。
私兵たちが見張り番をしていた扉を開けると、そこにはさらに大きな金と黒の扉があった。
イーサンの地図を確認、記載されていた場所と一致している。ここがダンジョンの入り口で間違いなさそうだ。この扉の奥が白の間らしい。
扉を押すが重い。
「オハギ、手伝って!」
「分かったなの!」
オハギの黒煙がモクモクと上がり大きな猫の手になって扉を押せばギギギと音が鳴り開く。扉の内側を覗いて顔を顰める。
「真っ白じゃん」
扉を開けると、床には鉱石ではなく白い苔とたくさんの白い草花が生えていた。壁も天井も白く、落ちている石まで白い。ああ、だから白の間なんだ。これ、大丈夫。
中に入る前に苔を触ってみるが色以外は普通の苔っぽい。
「ギンちゃん、苔いる?」
ギンがフルフルと首を振り要らないと言う。珍しい。
白の間に入り道を進む。私の足音以外の音がひとつもしない空間はまるで一人っきりで雪降る日に歩いているようだ。
白い空間が途切れるとゴツゴツとした灰色の石が続く。なんだか下に向かっているような気がする。ここ、空気とか大丈夫?
「誰か――」
あ、人の声じゃん。急いで声がした方に駆けるとシーラが見えたので手を振る。
「シーラ、久しぶり~」
「え? カエデちゃん?」
驚いた顔でこちらを見ながらシーラが手を振り返す。
全体的に少しやつれたように見えるシーラだけど、メロンは健在だ。
シーラの後ろにはイーサンの言っていた冒険者たち5人がいた、こっちも疲労感が半端ない感じだけど全員生きている。
「まだ生きててよかった」
「行方不明じゃ……いいえ、それよりもここまで一人で来たの? イーサンたちには会ったの?」
「うん。イーサンに頼まれてシーラを助けに来た。それに、完全に一人じゃないよ。ほら」
ポケットの中で暴れていたピピンを取り出すとシーラが泣きそうな顔で呼ぶ。
「ピピン!」
ピピンが離せというように私の手を振り切り走って行くとポワンと何かの壁を通り抜けシーラの胸へ飛び込んだ。
ピピン良かったじゃん、飼い主の元へ戻れて。
「ピピンを保護してくれてありがとう」
「保護したっていうか、勝手に現れただけだけど。ここまでの道案内もしてくれたし」
「そうなのね。ピピン、いい子ね」
シーラがピピンとの再会を喜んでいる間、壁になっている膜部分近付き手を翳すと弾力のある膜の壁に手が当たる。これ、ホブゴブリンの里で経験したセキュリティシステムと似てる。それなら鍵がないと入れないけど……ピピンは普通に通った。どうなってんの、これ。
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