案内人
またサプライズ面会人が来た時のためにオハギに表を見張らせ、地面の土を少し手で掃くと下は石造りだった。
「ギンちゃん、土の魔石をお願い」
「だえ!」
土の魔石で地面を掘ってみる。掘れないことはないけど土と違って時間がかかるし、ゴリゴリと鳴る音が地下牢をエコーしたのでやめた。最奥の牢に入れられてるけど、こんな音が続けば見張りが来てしまう。
「スパキラ剣、出番だよ」
ギンからスパキラ剣を出すと嬉しそうな気持ちが伝わる。
スパキラ剣で床の石を切っては土の魔石で吸うと、綺麗な濃い灰色の大理石のような石の層が現れた。
大理石をスパキラ剣で切れば、切れるがすぐに切り口が修復し元通りになった。
「えぇぇ」
これ、見たことがある。ギルドの練習場の鉱石と同じやつじゃん。無駄にハイテク要素いらないって。
スパキラ剣で何度か鉱石を切るもすぐに元通りになるので下に進めない……ダメじゃん。
スパキラ剣からから哀愁が漂う。
「スパキラ剣のせいじゃないから」
でも、どうするかな。領主邸正面突破? 大騒ぎになるコースは避けたいんだけど。
「カエデ、あたしの本体を出して」
肩にいるミニチズコが自信ありげに任せてと左右に揺れる。
一斗缶を出すとチズコがのそのそと降りて来る。
「チズコ、これだえ~」
「あら、いいわね」
ギンの渡した栄養玉をヤングコーンの一部に突っ込んで、スナック菓子かのようにボリボリと食べ始めたチズコ。食事の時間?
「これで準備はばっちりよ~」
チズコが剥き出しになっていた鉱石の上でゆらゆらと揺れ始めた。
「チズコ、説明は?」
「あん。静かにしてちょうだい。集中するから」
何に? ねぇ、何に集中してんの? 説明が欲しい。
すぐにチズコの根がにょきにょきと伸びズンズンと鉱石と鉱石の隙間に侵入して行く。鉱石のブロックがチズコの根に押し上げられ、下の方からは鉱石が床を打ち付け落下する音がする。あ、これ――ガコンと音がして足場とバランスを崩す。
「嘘でしょ! ちょっと! チズコ!」
このまま下に落ちる、と思ったけど途中でチズコの根に絡まって身動きが取れずに止まる。
「カエデ、大股開いているわよ」
「不可抗力だって。どうすんのこれ?」
「あん。引き上げるから動かないで」
無事にチズコに引き上げてもらい、穴の空いた地面部分から下の階を覗く。鉱石のブロックの多くはそのまま下の階に落ちたようだ。
「オハギ、今の音で誰か来た?」
「大丈夫なの!」
下の階は暗そう。ヘッドライトはこの間のマルクスとの闘いの後に遂に電池が切れてしまったんだよね。
「ギンがいるだえ~」
ギンがピカピカと光りながら言う。以前も光ったことあったけど……。
「ギンちゃん、ずっと光ってて大丈夫なの?」
「大丈夫だえ!」
ギンが胸を張りながら言うので大丈夫なのかな? この光ならヘッドライトなんかより広範囲に明るくなるのでありがたい。
「さすがギンちゃんだね!」
「だえ~だえ~」
ギンが嬉しそうに照れる。
地下2階へ降りる前に牢の隅のやや隠れた場所に、見張りが来た場合に備えて土の魔石で人型を形成する。イメージが足りないのかどこかのタイヤのマスコットのようなものができる。これでいける? モコモコカエデにいらなくなった古い服を着せれば、人のように見えなくもない。これで見張りが来ても大丈夫、だよね? たぶん、大丈夫。
「無理よ~」
チズコが笑いながら言う。
「もっと削いだら行けるかな?」
妖精たちとわちゃわちゃモコモコカエデにダイエットをさせ、チズコから合格点をもらう。
完成作品を見下ろしながら思う。こんなのに無駄な時間かけすぎじゃね?
気を取り直して、チズコの根っこを伝わり地下2階へと着地する。チズコも無事に着地して根っこを縮めた。
「それ、縮められたんだ……」
妖精のマジカルパワーは未知じゃん。
通った天井の穴は軽く土の魔石を使って埋める。牢からの脱獄成功……って、要らない経験値が増えすぎ。
ギンの発光を頼りに辺りを見回す。地下牢は土埃だらけだったのに、こちらは整備された綺麗な通路だ。天井、床、それに壁までもが全て灰色の鉱山で造られている。
少し進むとあちらこちらに分かれ道があり、目的地であるダンジョンの入り口に辿り着けるか分からなくなる。イーサンの地図は簡単そうだったから甘く見ていた。
壁をぶっ飛ばして進むのも修復する鉱石のせいで無理そうだし。地道に道を探すしかなさそう。
「あ、ピピン!」
ポケットに入っていたピピンが飛び出し少し走るとこちらを振り向く。捕まえようとしてもスルスルとウナギのように逃げられ距離を取るとまた振り返る。
「もしかして道案内しようとしてんの?」
まるでさっさとついて来いとでも言うようなやや偉そうな態度が気になるけど、ピピンの後を追う。
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