シャー

 私を忘れたのか呼んでも出てこようとしないピピン。ギンから受け取ったきゅうりを穴に突っ込み引っ張るとピピンがしがみ付いてきた。


「なんか前よりも小さいじゃん」


 ピピン、以前は丸々フサフサしたモモンガ風だったけど今は毛並みも悪く痩せている。とりあえずきゅうり一本を食べたピピンに不思議水を飲ませる。


「ピピン、シーラとはぐれた感じ?」


 動物と会話できないから知らないけど、ピピンが私の胸元を弄りながら何かを探す。ピピン、ごめん……シーラのようなメロンはここにはない。

 結局、胸ポケットに落ち着いたピピンが私を見上げる。


「何? きゅうり、もう一本いる?」


 きゅうりを与えると、身を隠すようにポケットに潜りきゅうりを食べ始めたピピン。早くシーラの元へ行かないとな。イーサンが書き写したダンジョンへの道順を確認する。地下は2階層になっているようで、ダンジョンがあるのは地下2階部分。


「えーと……ん。分からないんだけど」


 イーサンから貰った手書きのダンジョンへの地図は正面から入って地下へ向かった時の場合だし。でも、裏口を正面と真逆の方角だと考えると……ジッと地面を見る。


「ここの下の位置に近い?」


 考えてみればピピンもここの下から来たし、うん。ここから下に向かえばいいじゃん。

 イーサンの地図にはセイシュクの間というダンジョンの手前の広い空間で私兵が見張りをしており、そこから二重扉の奥にシロの間があり、そこを通過するとダンジョン入り口になっていると書いてある。シーラたちはそこにいるらしい。


「じゃあ、この下から道を探せばいいっか」


 地面に穴を開けようと土の魔石を握り地面に手を翳すと、こちらへ向かってくる足音が聞こえた。

 止まった足音の主を見れば従者の男だった。どうやら一人で来たようだ。


「シャー」


 オハギが威嚇音を出す。

(オハギ、どうしたん?)

「こいつ、なんか嫌い」


 オハギの気持ちは分かる。私もこいつは好きじゃない。

 面倒だけど、従者の男に尋ねる。


「面会来るの早くない?」

「貴女の到着が遅かったのですよ」

「ん。それでなんの用?」

「申し遅れましたが私はルカと申します。今よりも稼ぎが良く安泰な仕事に興味ありませんか?」

「ん?」


 え? スカウト?


「私の主はあなたのような特別な方を優遇しています」

「領主の息子――じゃない主ってこと?」

「はい」

「別に就職先とか探してないから大丈夫」

「それは困りますね。貴女みたいに視えるだけでなく妖精を使役できる人物は少ないですから」


 ルカと名乗ったこの男、妖精たちは視えないようだけど妖精の存在は把握しているようだ。

 何が目的か知らないけど、胡散臭い奴と関わりたくないし。知らないフリをしておこう。うん。そうしよう。


「妖精ってなんの話?」


 ルカがフッと笑う。


「私個人は貴女を評価している。私の主に絡みつくあの腐れ外道のマルクスを始末してくれただけでも生かす価値はあると。なので、強制的にではなく貴女の意思で話を受けてくれるといいのですが」


 あー、マルクスの関係者? ますます勘弁して。

 ニッコリと笑ったルカの胡散臭い顔にゲンナリする。ルカが動く度にオハギがシャーシャー言うし、今からシーラのところに向かいたいので早くどっかに行ってくれないかな。


「そんなの知らないし」

「そうですか……仕方ないですね。しばらくそこで考える時間をあげます。貴女だって大切な人を傷つけたくないでしょう?」


 そう言うとルカは去って行った。あー、めんどくさいのに目を付けられた感じがする。出来ればもう顔を拝みたくない。


「オハギ、大丈夫」

「シャー」

「ほら、マルガリータのハンカチで遊ぶ?」


 オハギの機嫌は一気に直り、ハンカチで遊び始める。


「さて、穴でも掘るか」

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