収監

 領主邸の裏口へ到着する。お尻が痛い。短時間なのにこの馬車乗り心地悪すぎるんだけど。


「さっさと降りろ」


 私を殴ろうとした私兵が手錠の鎖を引っ張ろうとしたが、手が滑り何度も鎖を落とす。


「あたしのヌルヌルを食らいなさい」


 チズコのヌルヌルどこから出たのか――ううん。気にならない。世の中には知らなくていいこともあるし。

 普通に降りたいのだけど、一つしかない出入口で鎖を何度も落とす私兵のせいで出ることができない。


「出たいんだけど」

「口答えするな!」

「えぇぇ」


 ようやく馬車から降りると領主邸の騎士のような人に受け渡される。

 まとめ役っぽい老騎士が私を見るとやや哀れんだ顔で連行した私兵に尋ねる。


「また若い女か。子息様関係か? 罪状はなんだ?」

「貴族への不敬罪を侵した冒険者です」

「……分かった。確かに受け取った」


 老騎士が別の騎士に命じるとなんやら小さな部屋に連れていかれた。

 連れてきた騎士が私を上から下まで見て舌打ちをして部屋を出る。


「ハズレだな」


 何が? と尋ねたかったけど、イーサンから聞いていたので大体予想はついている。要するにカエデちゃんはお呼びではないということだ、別に、その方がいいけど。なんだか腹立つ。

 しばらく部屋で待たされると、下級メイドだという15歳くらいの女の子に身体検査をされる。あの騎士に触られるよりましだけど、いろんなところを遠慮なく調べられて汚された感じで気分は最悪。


「武器等の所持品はございません」

「そうか、もう行っていいぞ」


 騎士には棒のようなものを近くで振り回された。


「それは何?」

「黙れ」


 あっそう。


「お前の金はどこだ?」


 そう聞かれたが、黙れと言われたので黙っていると殴られた。まぁ、正確にはチズコのシャボン玉が殴られたんだけど。

 騎士は信じられないという顔で私を見ながら困惑、もう一度、今度は力いっぱい殴り大声を出して地面で悶える。何、ただ脳筋おバカ? 

 チズコのシャボン玉は結構頑丈なので、あのパワーで殴った反動は相当の痛さだと思うけど……1回目で違和感あったのに2回目も殴る?

 悶絶する騎士をしばらく見下ろしていると騒ぎを聞きつけた老騎士が現れた。


「お前がやったのか?」

「ううん。お金どこか聞かれて一人で壁殴って倒れたけど?」


 それがほぼ事実だけど、騎士が腕を抑えながら反論する。


「違う。そいつが何か魔法を使ったのだ!」

「どうやってよ?」


 拘束の魔法封じを見せながら言うと、老騎士は拘束の腕輪を確認。ため息をつきながら手を抑える騎士に別の業務を与えた。

 その後、老騎士にも棒を振り回される。


「それは何?」

「魔道具を感知するものだ」


 それだけを言い棒ブンブンは終了する。

 次に連れていかれたのは排泄物とカビの臭いが充満している目的地の地下牢だった。地下牢はレンガの壁に土の地面、それから鉄格子のみだった。薄暗いがところどころの天井付近の小さな穴から光が漏れていた。地下牢は普通に臭いけど、なんだか最近こういう臭いがそこまで気にならなくなってきたのが怖い。


「足元に気をつけ進むように」


 老騎士にそう注意をされ前を進む。

 牢に入るのは計画通りなんだけど、通り過ぎる他の牢を横目で見ればなんだか若い女性の収容率が高い。それも格好から見てここ最近収容された人たちじゃん。


「あの子たちは何をしたんですか?」

「黙って歩くように」

「分かりました」


 なんとなく予想はつくから答えなくてもいいけど。どうせ、リスのおっさんが難癖付けて収容してるんだと思う。

 一つの牢の前で老騎士が止まる。結構奥まで来た。


「ここに入れ」


 指定された牢に入ると鉄格子に鍵を掛けられ再び老騎士に凝視される。


「静かに過ごすように」


 そう言うと老騎士がすぐに去ったので牢の中を見渡す。鉄格子から除く限り近くには誰も収容されていない。


「殺風景なところね~」


 チズコがつまらなそうに言う。


「そんなことないって、あそこ見て。鼠がいるし」


 鼠に近づけば、驚きながら壁下にある穴から逃げていった。

 穴を確認すると小さいけど風が通っている。これ? 外に通じているのかもしれない。穴を覗いてるとめちゃくちゃ目の大きな鼠がと目が合う。


「あ、ピピンじゃん」

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