連行成功
スパキラ剣が素早く反応、目の前に飛んできた従者の剣を止めるとギンの大きめビリビリが発動した。
「ビリビリだえ~」
ギンの大きなビリビリ食らったはずなのに従者は倒れずに立っている。凄いじゃん。
驚きながらも従者が軽く笑う。
「久しぶりに痺れる攻撃をされた気がします。魔法とは違う、これは実に面白い。ほら、見て下さい。手がまだ痙攣してますよ。その攻撃をもう一度お願いしたい」
ピクピクと動く手を見せながら従者の男が嬉しそうに言う。
「……変態じゃん。それに、急に斬るとかなくない?」
「仕方ないでしょう。私の主の命令なので。貴女も受け止めたのだから問題はないでしょう? しかし、剣の手入れくらいできないのですか? 仮にも冒険者なのですよね?」
従者の男がスパキラ剣を汚いものを見るかのような表情で言う。スパキラ剣はいつもキラキラとしてるしセルフメンテするので問題ないし。
「何をしているんだ! 早く殺せ」
リスのおっさんが騒ぎ出すと、一瞬、従者の男が煩わしい顔をしたのが見えた。リスのおっさんを主とか言っているけど、全然違うじゃん。
「オシリス様――」
従者の男が何やらコソコソをリスのおっさんに耳打ちをすると、こちらを見ながらリスのおっさんが顔を歪め言う。
「その冒険者を捕らえよ」
従者と私兵が私の周りを取り囲む。立ち向かおうと思ったが肩に生えたミニチズコが止める。
「あら、カエデ。捕まるのが目的じゃないの?」
あ、そうだった。完全に忘れてた。
スパキラ剣を仕舞い、イーサンに渡すフリをしてギンに収納すると従者の男が首を傾げる。
「拘束に応じていただけると?」
「ん。これ以上暴れても不利になりそうだし、応じます」
(ギンちゃん、オハギ、今から任務を遂行するためにワザと捕まるから攻撃はナシでお願い)
「分かったの!」
「任務だえ~」
チズコも一緒になって3人でワキャワキャする妖精たち。楽しそうでなにより。
「そうですか……また貴女から流れる快感を味わいたかったのですが、分かりました」
それ、別の言い方はないん?
全身に鳥肌を立てながら私兵に拘束用の魔封じの腕輪というものをつけられる。 私兵が腕輪をつけながら気分が悪くなっても倒れるなと脅されるが、特に何も感じない。魔力ゼロバンザーイ!
冒険者ギルドの裏口へ連れていかれる途中でイーサンと目が合う。うん。後はよろしく。
「連行、連行」
「あん」
「連行~」
「あん」
「レンコン」
オハギとギンの掛け声にチズコの喘ぐような濁声の相槌に笑いを堪える。やめて。
「泣くのは後にしろ」
私兵に乱暴に注意されるけど、これは笑いを堪えているだけだし。あえて訂正はしないけど。
冒険者ギルドの裏で私を連行する馬車を待つという。双子とユキたちにはこの手錠姿を見られることはなさそうなのでよかったけど、馬車が到着するまで妖精3人の歌が続いたのがつらかった。
領主邸まで走らされるのかと思ったけど、動物の檻のような馬車が登場する。ああ、これ護送車じゃん。この世界にもあるんだ。へぇ、と思いながら乗ろうとすると後ろからガンと音がした。見れば、私兵の一人が手を庇うようにして顔を歪めていた。
「どうしたん?」
「クッ、お前のせいだろ。クソ石頭が」
「えぇぇ」
肩辺りを見るとチズコのシャボン玉が見えた。
「攻撃はナシだけど、護りはアリでしょう? この男、カエデを殴ろうとしたのよ」
チズコが呆れながら言う。どうやらこの私兵は私のうなじを殴ろうとしたらしく、それをチズコのシャボン玉がガードしたらしい。自業自得じゃん。
「こいつ、燃やすの」
(オハギ、これは作戦だから。任務遂行の話をしたよね)
「任務だえ~」
うん。ギンちゃんはちゃんと作戦だと分かっててビリビリを出していないから偉い。
「いいから、早く乗れ」
護送車に乗り出発する。乗り心地はすこぶる悪い。
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