最短で牢屋行になる方法

「とりあえず、ダンジョンの壁が突破できるか分からないから。無理かもしれないし」

「壁を突破できた場合の作戦も必要だし、大体カエデは地下のダンジョンへの道順も知らないだろ」

「地下でしょ」


 イーサンがジト目でこっちを見る。何?


「ダンジョンには一度だけだが行った時の道はこれに記している」


 イーサンが地下のダンジョンへの行き方を書いた紙を渡してくる。結構複雑な道順じゃん。


「よく、覚えていたね」

「ああ、役に立ちそうでよかった」


 イーサンはシーラ以外のダンジョンに入った冒険者たちのパーティメンバーと連絡を取って協力を仰ぐという。彼らは何度も冒険者ギルドに嘆願書を出しているが、現在はイーサンたちと同じように顎で使われているという。

 それなりの冒険者がみんなして何をやってんの? と、思う。けど、私もユキとうどんが同じ状況だったらと思うと……確かに焦る。たぶん、領主邸を吹っ飛ばすくらいの勢いで乗り込むと思う。なんだか、あのリスのおっさんの頭の毛を毟りたくなってきた。

 外にいたユキとうどんに領主邸には一人で行くから、その間はイーサンたちと行動するように説得するとユキちゃんに不満を言われる。


「ヴュー」

「ユキちゃん、お願い」


 ユキにお願いとすり寄る私を見ながらイーサンが鼻で笑う。


「どっちが従魔か分からないな」

「自分だって従魔にまだ認められてないじゃん」


 イーサンの腕の防具を指差しながら言う。


「ピピンはシーラの従魔だから同じじゃないだろ」


 イーサンの腕の皮防具にはたくさんの小さな噛み痕と爪痕が付いていた。相変わらず拒絶されてんじゃん。


   ◇◇◇


 ギルド長の家を後にイーサンが協力を仰ぐという冒険者たちを探しにギルドへと向かう。

 ギルドに入るとすぐに2階にリスのおっさんがいるのが見える。


「えぇぇ。いるし」


 リスのおっさんは冒険者ギルドにはそんなに来ないんじゃなかったん? 昨日も今日もいるじゃん。

 リスのおっさんの後ろには以前執務室で見た例の従者、それから私兵が数人控えている。向こうもこっちに気付いたようでニヤつきながら団体様を引き連れ階段を下りて来た。何、あのワクワクした顔……そんなにレンコンが食べたいん?

 隣にいるイーサンに尋ねる。


「あれ、どうすんの?」

「ここで受け渡しをしたら領主邸に行く理由がなくなる」

「じゃあ、牢屋作戦の決行じゃね?」

「本当にいいのか? 無理なら言え」

「うん。いいよ。任せて」

「罵りはほどほどにな。やり過ぎるとこの場で斬られるぞ」

「ん?」


 罵り? なんの話?


「ダンジョンの壁を突破できるかの確認、頼む」


 イーサンが真っ直ぐこっちを見て言うので目を合わせ頷く。


「ん」


 イーサンは心配そうに私を見ているけど、大丈夫だって。非常事態になったら領主邸を全破壊してでも逃げだす予定だから。


「ミロとミラは一番ロータスを置いて一旦ここを離れろ」


 イーサンがそう言うと双子たちに少し不満気に頷き収納の魔道具から一番ロータスを出しイーサンに渡す。双子は冒険者だけど、まだ13歳の子供。子供扱いで悪いけど、これはイーサンが正解。


「ユキとうどんも双子たちに付いて行って」


 ユキちゃんも不満そうだ。私と離れるのが不満なんだと思いたいけど、あれはカエデ如きに指図されたのが不満そうな顔だ。ツンデレユキちゃんにウインクすると、無表情で無視された。ユキちゃん、酷い酷い。カエデの扱いが日に日に雑になってない? 2匹のためを思ってやってんのに!

 妖精たちは姿が見えないから害されることはないだろうけど、ユキとうどんはリスのおっさんに狙われているんだって。

 ユキもうどんの自衛はできる。リスのおっさんが気に入らなければ氷柱で一突きなんてことは簡単だけど……貴族殺害なんて騒ぎが起こるのは勘弁。たぶんだけど、オスカーの書状でも貴族殺害はカバーされていなさそう。賊だったら好きなだけ氷柱攻撃させてあげられたのに。残念。

 目の前に立って偉そうにするリスのおっさんのフサッている頭を見ながら、ガーザの街に到着して2日目にしてなんでこんなことに巻き込まれたのかとため息を吐く。シーラを助けたいという思いもあるけど、どうやら双子同様にイーサンにも情が湧いたみたい。


「イーサン、僕の一番ロータスを早くちょうだい」


 リスのおっさんがそう言うとイーサンが手に持っていた一番ロータスを強く握り尋ねる。


「シーラの現状はどうなっていますか?」

「もちろん、まだ生きているよ。ほら、早く僕の従者に渡して。今日はとっておきのメニューをシェフに注文したんだよ」


 リスのおっさん、レンコンのことしか考えてないじゃん。


「イーサン、これは私が渡す」


 イーサンの手に握ったままのまだ少し泥のついた一番ロータスを半ば奪い取る。

 両手を出し一番ロータスを待つ従者の男を見る。今は胡散臭い朗らかな笑顔を見せているけど、ネルソンの情報によるとなかなか手強いらしい。最近従者になったという点でもすんごい怪しい人物だ。

 いつまでも一番ロータスを渡さない私に従者の男がやや苦笑いで言う。


「渡して頂けますか?」

「ん」


 従者の男に一番ロータスを渡す寸前で止め、リスのおっさんを見ながら口角を上げそのままレンコンをボリボリと目の前で食べた。

 従者の男もリスのおっさんも私のレンコンを食べる姿を凝視したまま停止する。

 ――ボリボリ、シャリシャリ、ジュルジュル。静まり返った冒険者ギルドで鳴るカエデの咀嚼音。


「僕の一番ロータスが……」


 半分くらい一番ロータスを食べ終わるとリスのおっさんの小さな嘆きが聞こえる。


「これ、やっぱり美味しい」

「貴様……」


 怒りで段々と顔が赤くなるリスのおっさんの前でレンコンを完食。ちょっと泥が付いていたけど、普通に瑞々しくて最高だ。化け物ワニがいなければ、また採りにいきたいくらい美味しい。

 隣にいるイーサンを見れば困惑した顔で首を振る。

 ん? もしかしてこれだけじゃあ不敬が足りないってこと? あ! そうじゃん!


「罵りを完全に忘れていたし。了解」

「カエデ、待て――」


 任せてとイーサンに親指を上げ、そのままリスのおっさんに向け言い放つ。


「腰抜け小動物野郎、自分の靴くらい自分で脱げ、そして足を洗え」


 そう言うと辺りにいた冒険者からたくさんの咳が聞こえ始めた。

 リスのおっさんはワナワナとしているだけで何も言わない。うーん……罵りが足りなかった感じなん?


「お前に食わせる石ころもな――」

「貴様! ルカ、こいつを斬れ!」

「えぇぇ」

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