思わぬ収穫
窓の外を見ればユキとうどんの姿が見えた。
「これ、木の上にいたの!」
どうやらユキたちと一緒に木の上にいた不審者を捕らえたらしい。凄く頼もしいのだけど、オハギが不審者を咥えている人はイーサンたちから見れば宙に浮いているようにしか見えないんだけど。空中でプラプラする人に双子はすでに白リザードで経験したので平気そうだ。イーサンやギルド長夫妻を見ればこれでもかというほど目を開けながら窓際に浮かぶ人を見ていた。そうなるよね。分かる。
イーサンが小声で言う。
「例の妖精か?」
「うん」
「本当にいたのか」
イーサンが妖精の存在を確かめるように宙に浮く男の周りで左右に手を振れば、オハギがウズウズと尻を振る。
(オハギ、とりあえず、その人を床に置いて)
「ペッなの!」
オハギが床に不審者を投げ落とすと、その男は見たことのある顔だった。
「あ、嘘つき男じゃん」
昨日、私の宿の部屋を訪れ副ギルド長だと偽った嘘つき男だ。男は全身を迷彩柄で包み顔も茶色に塗っているけど、絶対そうじゃん。
「カエデの知り合いなのか?」
「ううん」
イーサンに副ギルド長と偽られたことを伝え、鞘に入ったままのスパキラ剣で気を失っている男を突くと目が開く。
「あ、嘘つき起きたじゃん」
「黒煙のカエデか……やられたな」
「そんな名前じゃないし」
「出来れば殺さないでもらえると嬉しいのだが」
軽く笑いながら両手を上げ言う男を無表情で見下ろす。今この時もこの男からは全く殺気はしないけど、この緊張感がない感じはなんなん?
「これ、オハギの獲物なの!」
オハギは自分の狩った獲物だと何度も主張しながら男の顔を尻尾でぺシぺシと叩く。男は叩かれる度に何度も目を閉じ、顔を顰める。妖精のこういう攻撃も普通に感じるんだ。
「これは何かの攻撃か、前のピリッとするのとは違うが地味に痛いな。やめてくれないか?」
オハギの獲物だし、止める予定はない。
床に仰向けで横たわったままの男に尋ねる。
「で、何者? なんで偽装してまで昨日私に接触して来たん?」
「殺さないと約束してくれるか?」
「なんでそんな約束する必要があるん?」
別に敵じゃない限り殺すつもりなんかないけど……一応、双子たちが男の手足を捕縛、男の話を聞くことにする。
「俺は情報屋のネルソンだ」
情報屋……そういえば、マルクスが私の動向を情報屋から買ったとか言っていた。こいつが私の情報を賊に売った奴なん? それなら話は変わるけど。
ネルソンを真顔で見下ろす。
「マルクスに私の情報を売った情報屋?」
「待て待て。そんな目で見るな。俺は情報を売る客は選んでいる。賊には決して売ったことはないし、売らない。本当だ。それは俺ではない」
ヘラヘラしていたネルソンが態度を変え焦りながら言う。
「じゃあ、誰が私の情報を売ったん?」
「きっと別の情報屋だ。俺も知らない」
ネルソンの顔を凝視する。本当? 事実を言っているのかは分からない。
ネルソンと話を続ける。
「なんで昨日、私に会いに来たん?」
「情報を売れるかと思ったんだ。あんたの話は以前から聞いて知っていたが、しばらく音沙汰がなかったので死んだと考えていた。だが、この街で別件を調べていたら冒険者ギルドに現れたので接触したまでだ」
んー。この言い分を信用できる? ネルソンの胸元を漁るとナイフやら収納の魔道具が出て来た。一応、収納の魔道具に手を入れて死人が入っていないか調べる。
収納の箱は、日常用品や野営の道具に剣やナイフしか入ってなかった。
書類とかないのかネルソンに尋ねれば、情報は全て頭に入っているとドヤ顔で言われる。
「じゃあ、なんの情報を売ろうとしたん?」
「この街で今起きていることとかな。冒険者なら情報は大事だろ?」
「この街で起きてることって何?」
「情報の無料提供は勘弁してくれ」
情報はタダでは寄こさないってことか。捕縛されているくせに、この状況でハート強くね? 起き上がりこちらを真っ直ぐ見るネルソンにちょっと感心する。でも、お金で解決するならその方が楽だしありがたい。お金で動くタイプ、実は嫌いじゃない。はっきりしてていいじゃん。私、今は小金持ちだし。
「その情報はいくらなん?」
「情報は銅貨から銀貨が相場だが、金貨の情報もある」
ネルソンが不敵な笑みで言う。
財布から金貨10枚を取り出し、拘束されたままのネルソンの膝の上に置くとネルソンの顔色が変わる。
「これで私の知りたい情報を全部言える?」
「ああ、何が知りたい」
ネルソンが口角を上げながら言う。
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