捕まえた

「これはなんなのよ!」

「マジカルシャボン玉」

「は?」


 騒ぎ始めた女を無視して、イーサンに尋ねる。


「これ、どうすんの? シャボン玉もうすぐ割れるんだけど」

「は? これは自動で割れる仕様なのか?」

「これはね」

「……俺が空を飛んでいた時の分はどうなんだ?」


 イーサンが空を飛んだ時のシャボン玉はミニチズコが出したものだった。チズコ曰く、あれは小さいシャボン玉だからまだ時間制限は長いらしい。イーサンが空から下りて来た時点でいくつかはすでに割れていたらしい。すんごいギリギリじゃん! そういう大事な情報の後だしは本気でやめて。

 こちらを疑いの目で見るイーサンに歯を見せる。


「そんな細かい事はいいんだって」

「それは説明になっていないだろ……」


 イーサンが呆れた顔で言えば、双子が大声を出しながら部屋に乗り込んできた。


「「凄い音がしたよ!」」


 双子は捕らわれた家政婦とシャボン玉を見て状況を理解したのか、声を揃えて言う。


「「こいつが、悪い奴?」」


 そうだけど、状況判断が早くない?


「カエデ、もうすぐ割れるわよ」

「もうすぐだえ~」


 チズコギンがシャボン玉を指差しながら言う。

 えぇぇ。もう? 

 パンッとシャボン玉が割れると同時に家政婦を拘束、イーサンや双子も瞬時に拘束を手伝ってくれたおかげで無事に家政婦を完全に動けない状態にできた。一応、無理やり家政婦の口をこじ開け銀歯を確認する。銀歯はナシ。

 ギルド長の妻によるとメイドは少し前に雇った足を負傷した冒険者だという。全然普通に猛ダッシュで走ったんで、怪我は嘘っぽい。


「毒を盛った理由は何?」

「ふん」


 何を尋ねても女は口を割るどころか黙秘した。いや、こっちもシーラ助けに行きたいし、時間ないから。ギンからアイスピックを出し持っていたレンコンを刺す、刺す、刺す。


「これ、足だったら痛そうじゃん。リアルに足の負傷できるけど……どう思う?」


 女が無言のままなのでレンコンに刺さったアイスピックを抜き、女の足に向かって振り上げる。


「私はただ頼まれただけ! 本当に何も知らない!」

「誰に頼まれたの?」

「知らない男よ! 指示通りにすれば借金を帳消しするって! ギルド長が死ぬまで見張れば、その後は自由だって言われて!」


 イーサンと視線を交わす。


「絶対陰謀じゃん」

「ああ」

「どうすんの?」

「シーラを助けに行く」


 だよね。イーサンは意外と真面目。ルールとか考慮しながらシーラを助ける道を考えていたんだろうけど、ギルド長とそれからたぶん領主の毒殺計画がある陰謀の前でシーラの命なんか軽いものじゃん。早く助け出さないと口封じされそう。


「僕たちも行く!」

「私たちだって役に立つ!」


 双子がそう言うとイーサンも頷く。さすがにイーサンも今回は双子に『待て』はできないって判断したっぽい。

 ベッドからギルド長が半身を起こし、咳き込む。


「あなた!」

「イーサン、捕まえたか……」


 ギルド長の息はまだ荒く絞り出すような声だけど意識は完全に戻ったようで、妻と手を取り合いながらこちらを見ていた。不思議水凄くね? ほんの数十分前まで虫の息で死にそうだったじゃん。

 ギルドの妻に不思議水とストローを渡しながら言う。


「これ、ポーションだから」

「あ、ありがとうございます。このお代は必ず払います」


 ギルド長の妻が礼を言いながら、金の話をする。


「あー、それは要らないんだけど、領主の息子をギルド長代理で適当なことしてんの止めてほしいんだけど」


 イーサンがギルド長にここ数週間、冒険者ギルドで起こったある程度の経緯を説明するとギルド長の目が怒りで満ちるのがわかった。まぁ、怒る元気が出たのなら回復も早そう。

 捕まえた家政婦の女はギルド長の持っていた魔力を吸い取るという拘束の魔道具で縛り、別部屋に閉じ込めた。女の処分はギルド長に任せることにするけど、ガーザのギルド長はマルゲリータみたいに更生のチャンスとかはなさそう。

 部屋を見回すと、家政婦の女の魔法攻撃のせいでいろんな物が散乱しているけどこれくらいならそこまで大きな被害じゃなさそう。ん? そういえばオハギはどこ? ごたごたしている途中からどこかへ消えてるし。

 頭の中でオハギを呼ぶ。


(オハギ! オハギ! どこ?)

「ここなの!」


 窓の外から何かを咥えて登場したオハギ。咥えているものを見れば……人だし。

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