ペッペッペッ
副ギルド長の件でモヤモヤしながら本来のガーザの街のギルド長の家に到着する。
「結構立派な家じゃん」
二階建ての広い庭の付いた家に立派な柵と門。冒険者ギルド長って結構儲かるんだ。マルゲリータの家も結構大きかったし。
ユキとうどんは庭で待機させる。家政婦に案内されたリビングには、ギルド長の妻だと言う40代くらい金髪の女性が座っていた。
「冒険者の人ね。今日はどのような用件で?」
綺麗な人だけど、数日寝ていないのか顔に疲労が出ていた。
イーサンが軽く礼をして優しく声を掛ける。
「覚えているだろうか、シーラと共に一度会ったのだが」
「ああ、ええ……元銀級の――」
「イーサンだ。後ろの3人は俺のパーティメンバーだ。ギルド長の具合はいかがだろうか?」
「医者にはもうやれることがないと……」
ギルド長の妻とイーサンが顔見知りだったので、お見舞いに来たと言えばすんなりギルド長がいる部屋まで案内された。なんかあっさり見舞いを承諾したけど、イーサンは一応冒険者ギルドの職員だったので信用度は高いみたい。
双子も一緒に行くと言い張ったがイーサンに大人数はやめろと説得されリビングで待つことになった。
通された部屋はやけに甘酸っぱい臭いで充満していた。家政婦が線香のようなものに火を点けると甘い臭いがさらに強くなった。煙は痛みを取る医者の処方だという。ユキちゃんいなくて良かった。正直、私でもこの臭いはきつい。ユキちゃんがいたらすこぶる不機嫌になっていたと思う。
ギルド長の手を握りながら妻が声を掛けるが、何も返事はない。反応すらない。これ、よろしくないやつだ。
「手に入る最高級のポーションを飲ませたのだけど、もうあまり反応がなくて……」
倒れる前までは特に病気もなく元気だったという。医者には毒の可能性が高いと言われたらしい。毒と言えばマルクスが頭に浮かぶ。あいつの十八番だし。んー、でも毒なら不思議水で治るじゃん。
「どうだ? カエデのポーションなら治ると思うか?」
イーサンが振り向きながら尋ねる。
「毒だったら大丈夫だと思うけど、約束はできないから」
そう告げるとギルド長の妻が目の色を変え、私の腕を強く掴む。
「本当なの? いくらでも払うから!」
「ちょっと痛いって!」
腕を離してくれないギルド長の妻をイーサンが落ち着かせる。
「効くか分からないが、ギルド長に試してみてもいいか」
「ええ、ええ。いくらでも払うから」
代金など正直いらない。このギルド長にはあのリスのおっさんを追い出してもらうために元気になってもらいたいだけだから。
ギルド長のベッドの真横にある椅子に腰を掛ける。
間近で見るギルド長の目は半開きで充血、顔は真っ白で唇の皮が酷く縦に割れ、爪も紫色に変色していた。実際は50代くらいだろうけど、今の姿は死にかけの老人。
――虫の息。本当にそんな感じ。
この状態から治る? 想像していたより酷い状態なんだけど。
とりあえずギルド長の口の中に不思議水を流すが……飲み込む力がないのか口の端から枕元に不思議水がこぼれてしまう。
ギンから部長の叔父さんの日常用品の中に紛れていた使い捨てのストローを出してもらい、根気強く口の中に不思議水を流し込む。
部屋に充満する、纏わりつくような甘酸っぱい臭いがかなり気持ち悪い。腐ったスイカの臭いに近い。
部屋の隅で線香を揺らす家政婦に視線を移す。
「その線香、どうにかならない?」
「これは医者に言われているから……」
家政婦が線香を消すのをためらいながら答える。ギルド長の妻も同じ意見のようで首を振る。別にいいけど。
ストローで不思議水を流し続けること15分、瞳に生気が戻ったギルド長と目が合う。効いてきたじゃん! 不思議水、万能すぎる。
喜んでいるのも束の間、ギルド長の視線が訴えるように何度も家政婦に行く。同じように視線に気づいたイーサンが小声で言う。
「俺が行く」
「ん」
イーサンがおもむろにトイレに行くフリをして家政婦のいる方向へ素早く歩く、異変に気付いて逃げ出した家政婦を床に叩きつけ捕縛した。
「な、何事なの!」
驚きながら大声を上げたギルド長の妻は困惑した表情で地面に拘束された自分の使用人を見る。家政婦は無言で笑うと詠唱を始めた。めっちゃ早口じゃん!
詠唱が終わり発動した魔法の突風でイーサンが押され、手を離した一瞬に女が窓に向け走る。
「やばいじゃん!」
「だえ!」
ギンの声がしたと思ったら、肩に生えたチズコからシャボン玉が飛んでいくのが見えた。
家政婦はそのまま逃げようとしたが障害物にぶつかりひっくり返る。起き上がりまた走ろうとするが再び障害物にぶつかり身動きが取れなくなり叫ぶ。
「これ、なんなの!」
チズコのシャボン玉だ。
(ナイス、チズコ!)
「この姿だとあたしの力は半分以下だから割れる前に捕まえなさいね」
えぇぇ。そんな制限時間付き? 風の衝撃で壁に打ち付けられたイーサンが、首を鳴らしながらシャボン玉に囚われた女を観察する。
「イーサン、大丈夫?」
「ああ、そいつ結構な風魔法の使い手だ」
確かに魔法の風は強かった。シャボン玉を叩き騒ぐ家政婦の女の前に立ち尋ねる。
「えーと、ギルド長に毒を飲ませた犯人でいいん?」
「ここから出しなさいよ!」
そう言いながら家政婦から唾を吹き掛けられる。えぇぇ。
吹き掛けられた唾は私には届かずにシャボン玉の側面に垂れていく。なんで唾を吐いたん?
「汚いじゃん」
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