ギンの成長と無銭乗車

 ギンから次々と流れるように出て来るカラフルな胞子が夜空を舞う。凄く神秘的で綺麗。

 カラフル胞子はイーサンにも双子にも見えないようで、無反応。

 手の甲に着いた胞子を指先で擦る。これ、大丈夫だよね? 怪しいキノコが手から生えてくるとかホラーは勘弁。


「ギンの胞子だえ~」


 嬉しそうにギンが踊りながら胞子を振りまくとオハギがチズコの頭を舐め始めた。


「いいわいいわ。これならいけるわ」


 一体何を見させられてんの、これ。

 チズコが急に自信満々に得意のシャボン玉を使えば他の妖精の膜を破壊できるという。


「2人にパワーをもらったのよ」


 あ、そう……。


 確かに冒険者ギルドでチズコにおすそ分けされた力でギンが出したシャボン玉はオハギの灰色の壁も突き抜けていたけど……うーん、ピンク色の濁声でアンアンはしゃぐヤングコーン白菜を信じるかは微妙。


(ギンちゃん本当に?)

「チズコを信じるだえ~」


 ギンのこのチズコへの絶対的信頼は何?

 焚火を囲む3人に提案する。


「そのダンジョンの壁、直接確かめないと知っているのと同じなのか分からない。このクソ依頼が終わったら行けるけど?」

「ああ……いや、それがな」

「「あいつが面会させてくれないの!」」


 双子が同時に爆発するかのような大声で叫ぶ。普通に耳が痛い。キーンと鳴る耳を抑えながら尋ねる。


「あいつってリス――ギルド長代理?」

「そう! 私たちに変な依頼ばっかりさせてシーラに会わせてくれないの」

「ここ何日も続けてあいつの食べたい物を採って来いっていわれて……僕、悔しい」


 ミラとミロが顔を歪め地面に視線を落とす。

 3人はシーラに面会させることを餌にリスのおっさんにいいようにお使いをさせられているのか。まんまと利用されてるじゃん。


「イーサン、最後に生きているシーラを見たのはいつなん?」

「10日前だ。領主様の意識がなくなるのと同時期に領収邸へ入れなくなった」


 あのリスのおっさんは、対外的には王都から専門家を要請しているので無闇にダンジョンの入り口に人を近付けることできないとなど、のらりくらりと言い訳を並べているらしい。

 もちろんイーサンと他の冒険者の関係者は当初は抗議したらしいけど、領主の私兵がリスのおっさんの命令で数人を見せしめのために反逆罪で捕らえ地下牢に放り込んだという。今は大人しくシーラの近況を得るために毎日あのリスのおっさんの餌を運ばされているのがイーサンたちの状況。あのリスのおっさんはクズ、了解。


「うん。事情は分かった」


 ため息をつく。うん。これ、私でも分かる。よろしくない状況じゃん。王都に専門家を要請しているっていうのも事実か分からないし。いや、たぶん嘘っぽい。なんかそんな感じがする。


「明日も早いし、寝るぞ」


 イーサンたちと交代で野営番をすることになり、テントに入りギンちゃんとチズコが仲良く栄養玉をシェアして停止する。

 横になりテントの天井を眺める。

 とにかく、目的はシーラの救出なんだけど……どうやって領主邸の地下へ行くかな……あ、いい方法があるじゃん。


 ◇◇◇


 次の日、一番ロータスを採りに沼へと向かう。

 沼に到着するとイーサンが小声で言う。


「リザードは音に敏感だからできるだけ小声でな」


 日が昇り始め、沼を埋め尽くすほど一面にいる『リザード』を見てうんざりする。


「ワニだし……」


 大量のリザードたちを双眼鏡で確認すればあっちもこっちもそっちもクロコダイルパーティー。確かに同じ爬虫類だけど、私が考えていた蜥蜴とは違う。結構歯と爪が鋭そうなんだけど……この中をどうやって音を立てずに通るん? 無理でしょ?

 イーサンは過去にも一番ロータスを採取したことがあるらしく、蓮の葉に乗ってゆっくり沼の中心に進めば自然にリザードたちは道を開くから大丈夫だと言う。

 イーサンをジト目で見る。


「前もやった依頼だ。大きな声を出したり、攻撃したりしなければ奴らは基本浮いているだけだ」

「危なくなったら速攻で逃げるから」

「ああ、そうしてくれ。双子にも分かったか?」

「「うん」」


 うどんとオハギは全てを台無しにしそうなので同行を却下。ユキは始めから行く気はないようで地面に横になって欠伸をしている。別にいいけど。

 昨日の内に準備していた蓮の葉にそっと乗ると一匹のリザードも一緒に乗ってくる。爬虫類としばらくアイコンタクト。え? なんで?


(何このワニ、なんで乗って来たん?)


 鞘に入ったままのスパキラ剣でリザードをゆっくり蓮の葉から沼に落とすと、落ちた勢いで盛大に跳ね数匹にぶつかりながら暴れる。

 ちょっと! そんなに強く押してないし! オーバーリアクションだって! 暴れ続けるリザードの連鎖で沼全体のリザードたちが跳ねる。跳ね終わるとイラついたように喉を鳴らしながら辺り一帯のリザードたちがこちらを睨む。あ、やばい。


「おい! さっさと沼から離れろ!」


 後ろからイーサンの声が聞こえたと思ったら、リザードが一斉に向かってきたのでスパキラ剣で飛んでくるリザードを斬りながら沼を上がるけど、とにかくリザードの数が多くてキリがない。辺りはリザードの合唱でイーサンと双子の声が途切れ途切れに聞こえる。

 沼を上がってきたリザードが靴の先に噛みつく。


「あ、ちょっと! 靴噛むのナシだから。靴はやめて!」

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