妖精の仕業

 イーサンが言うには、2週間前に銀級のシーラとその他の手練れの冒険者は体調を崩す前のガーザの領主からとある依頼を受けたそうだ。

 そのとある依頼とは、領主邸地下にあるダンジョンの近況調査らしい。しかも領主邸は街の中心にあるらしい。その地下ってことは……ガーザの街の真下にダンジョンがあるってことじゃん。もうダンジョンはいいって!


 どうやらガーザの街はダンジョンを軸に発展したらしい。ガーザの街のダンジョンは50年以上も前に閉鎖されており、今ではその事実は薄れているらしい。領主一族はダンジョンの護りを担っているという。

 イーサンにはダンジョンの閉鎖の理由までは知らないと言われた。絶対に何かあったから閉鎖したんじゃん。絶対そう!


「そんなダンジョンをなんで調査しないといけなかったん?」

「シーラから聞いた話だが、地下のダンジョンの入り口にたまに現れていた魔物がここ一年で徐々に強くなっているそうだ。死の森の魔物も活性化しているから調査することにしたという話だ」


 魔物の活性化……確かマルゲリータも同じことを言っていた。私がマジカルトラベリングしている間に魔物はブートキャンプで筋トレでもしていたらしい。迷惑じゃん。

 とにかく、シーラたちは領主邸地下ダンジョンの調査を無事終了させ入り口まで戻って来たけど……そこで見えない壁がシーラたちの行く手を阻んでいるらしい。

 イーサンは元銀級ということでシーラたちが閉じ込められた初日に中の人を解放するために領主邸に呼ばれ、その時にその見えない壁を壊そうとしたという。


「何をしてもビクともしなかった」


 イーサンが壁を攻撃したという刃こぼれの剣を取り出すと、スパキラ剣がカタカタと動きアピールする。うんうん。スパキラ剣ならなんでも切れると思うよ。

 でも、見えない壁ってさ……心当たりあるあるなんだけど!


(ギンちゃん、これ、妖精の仕業じゃないよね?)

(だえ?)


 ギンがコテンと首を傾げる。可愛い……じゃなくて、壁技はマジカルなフェアリーの得意技じゃん。特に膜っぽい壁とかは心当たりしかない。

 パトロールから戻って来たオハギにも心の中で同じ質問をすれば、うどんと遊びながらオハギが答える。


「分からない!」


 あー、ダメじゃん。ギンもオハギも妖精としてはまだ幼いらしいから分からないのも仕方ない。

 ログハウスの周りに囲った膜なら悪意がある者やその握っていた武器は通さなかったけど、ご近所さんが投げて来た石や弓は膜を通り抜けた。


「んー、もしかしてその壁って物は通す感じ?」

「なんで知っている? あの壁について何か知っているのか!」


 イーサンが立ち上がり大声を出す。やっぱ妖精の仕業っぽい。でも、なんで人を閉じ込めているん?


「なんだかその話、どこかで聞いたことあると思って」


 誤魔化しながら言う。だって死の森にいたことや妖精のマジカルストーリーをしてもまた変なものを見る目で呆れられるのがオチだし。

 イーサンと目と目が合う。その顔は藁にもすがるような表情だった。シーラは知り合いだし、結構好きな部類に入っている。助けてあげたいという気持ちはカエデちゃんにだってある。


「カエデの知っているものと同じだと思うのか?」

「いや、分からないけど」

「ああ、そうだよな……」


 実際見ても何もできない可能性が高い。本音は、その見えない壁をどうにかできる確証がない限りダンジョンになんか近づきたくない。崩壊寸前のダンジョンをサダコと死ぬ気で走ったのを思い出し悪寒がする。やだやだ、絶対やだ。

 なんとも言えない表情でイーサンと双子が焚火を見ながら静かになる。ああ、もう!

 オハギと頭の中で会話する。


(オハギ、オジニャンコはまだ寝てんの?)

【寝てるの!】

(起こせないの?)

【うーん。分からないの!】


 オジニャンコだったら妖精のマジカル壁も猫パンチで壊せそうなんだけどなぁ。無理にでも起こす? ううん、寝起き超不機嫌そうだしやめておこう。


「チズコがいるだえ~」


 ん? チズコ?


「あら、あたし? どうかしら、以前のあたしならともかく……」

「できるだえ~」


 チズコの周りを踊り出したギンからフワフラと胞子が舞い始めた。

 え? 何これ? ギンちゃんの胞子?



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