ギンの喜び

 これ以上暗くなる前に野営の場所でテントを組み立てる。双子はイーサンたちと奮発して購入した4人用のティピーを立てた。双子はティピーの組み立ても野営の準備も慣れた動きで次々とこなし、あっという間に焚火の火が付いていた。

 双子、ちゃんと冒険者って感じじゃん。いや、実際に冒険者なんだけど……最後に会った時よりも外見だけでなく内面も随分成長しいる。嬉しいけど、なんだか私一人が置いて行かれたような気分になる。双子とイーサンの信頼度も高く、家族のように仲が良い。イーサンに双子を預けたのは正解だった。

 イーサンが大鍋を火の上に設置、切ったレンコンを放り込む。


「今日はロータスのスープだ。肉は干し肉しかないが、まぁ、不味くはないだろ」

「あ、カエル肉ならあるよ」

「お、いいな」


 イーサンがレンコンを切り調理を始めたので不思議水を鍋に入れギンから受け取ったカエル肉を提供する。

 イーサンが急に出て来たカエル肉を見ながら尋ねる。


「魔道具か?」

「うん」


 実際に収納しているのはギンちゃんだけど、マジカル妖精の話は可哀相な子扱いされるからしない。収納の魔道具は高価な物っぽいけど、別に凄く珍しいというわけではなさそう。オスカーや賊のサメも持っていたし……いくらなのか知らないけど。


「ギンだえ!」

(うんうん。ギンちゃんだね)


 ギンは収納の魔道具のことを毛嫌いしている。嫌い過ぎてサメから回収していた収納の魔道具を仕舞ってくれないのでずっとバックパックに入れたままだ。


「私たちもお金が貯まったら買うって約束してるんだよ!」


 ミラがそう言うとミロも頷きながら言う。


「魔道具があったらもっと狩ったものを持って帰られるから」

「収納の魔道具っていくらいするん?」

「僕たちが見たのだと容量は少ないけど金貨2、30枚かなぁ」

「えぇぇ。そんなにするの?」


 サメから奪った収納の魔道具は現在何も入っていない。ギンちゃんが成長したおかげで十分な収納力あるし、なんせあの木箱を使うのを凄い嫌うので使用不可な状態。木箱を売ったら相当なお金になりそうだけど、カエデちゃんは現在小金持ちだからお金に困ってはいない。

 収納の魔道具をバックパックから出し双子に見せる。


「自分たちで魔道具が買えるまでこれ貸してあげる」

「「いいの⁉」」


 双子が声を揃えて言う。2人とも目がギラギラさせていけど、あくまでも貸すだけだから。


「自分たちの魔道具を買ったら返してね」


 双子が収納の魔道具を受け取らずにイーサンに大丈夫か確認をする。イーサンに収納の小箱を見せるとため息をつきながら尋ねる。


「この側面に着いたのは血か?」

「え? あ、ううん。模様模様」


 服の端で木箱の側面を拭くが――血はすでに木箱に染みついている。んー、サメの血? 魔道具の機能に問題はないはず……だよね?


「こんな、高価な物を貸し出していいのか? いくら払えばいい?」

「ううん。お金は要らないよ。私も他に立派な収納があるから」


 腕に座るギンを見ながら言う。イーサンはレンタル代を払うと言ったけど、受け取る予定はない。1年も姿を消して双子には迷惑をかけたし、お詫びのつもりだ。貸すだけだけどね。お金を貯めて魔道具を買いたいという双子にポンポンと物を無料で与えるのもなんか違う感じがした。


「……そうか。それなら有難く借りる」


 イーサンが収納の魔道具を双子に渡すと手を上げて3人が喜ぶ。ミロ、ミラ、そしてギン。ギンちゃんの露骨な木箱毛嫌いに思わず笑ってしまう。


「カエデ、ありがとう!」

「僕たち、自分たちの魔道具を買うまでこれをちゃんと大切に使う!」


 子供のようにはしゃぐ双子は以前の覚えていた笑顔のままだった。


「そろそろスープができるぞ」


 ユキたちにオーク肉を投げ、イーサンの作ったレンコンとカエルのスープを食べる。おお、結構美味しいじゃん。

 ユキたちは食事が終わるとオハギと共にどこかへと消えた。ナイトパトロールかな?

 双子は食欲旺盛なのかガツガツと食べお代わりを要求していた。そういえば、4人しかいないのにやけに大鍋に作っていると思ったけど……双子は成長期か。


「ゆっくり食え。後で腹痛くなるぞ。おい、服にスープが落ちたぞ、これで拭け」


 双子の世話をするイーサンがまるで母親のようだ。イーサンママじゃん。


「イーサン、お母さんじゃん」

「お前までそんなこと言うのか、いつもシーラが……」


 そう言ってハッと会話をイーサンが止めるとニコニコしていた双子のテンションも落ちた。この後やることもないし事情を聞くいい機会じゃん。

 スープを一気飲みして3人に尋ねる。


「で、シーラは今どこにいるん?」

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