バウンシング★カエデ
イーサンと双子が目を丸くする中、完全にシャボン玉に包まれる。力いっぱいシャボン玉を叩き、石バンバンで攻撃するも……ビクともしないし!
「オハギ! チズコ! ギンちゃん! やめて! やめて!」
イーサンたちの声は聞こえるけど、私の叫びは外には聞こえないらしい。困惑顔のイーサンと双子たちを乗せたままユキとうどんがフルスピードで出発、イーサンの叫び声が草原に響いた。え? 置いて行くん? え?
「大丈夫だえ~」
「大丈夫なの! 見て!」
オハギが前足を差した方向をシャボン玉の中から目を凝らし見る。
「えぇぇ」
シャボン玉の中から目を凝らしてみるとユキの尻尾にオハギの黒煙のロープが結んだあり、その紐の先にはシャボン玉に巻き付いていた。
「あれの何が大丈夫なん? ねぇ?」
緩かった黒煙のロープがピンと張ると、その勢いでシャボン玉が空中へと舞った。
「ぎゃああああああ。やめてぇぇぇ」
そんな叫びは聞こえないまま空中へ上がり、フルスピードで空を移動し始めた。
「いやぁぁぁぁぁ」
ああ! シャボン玉を割るのにスパキラ剣を使えばよかったじゃん! スパキラ剣を握って転がりながら地面を見る。
(思ったより高いし!)
こんなところでシャボン玉が割れたら地面へGOじゃん!
「きゃはは。行くの!」
「行くだえ~」
「あら、意外と楽しいじゃないのぉ」
妖精たちがはしゃぐ中、一斗缶のチズコを抱きしまたままシャボン玉がポヨンポヨンと地面に打ち付けられ空に上がる度に何度もバランスを取るのに集中する。
1時間もかからず目的地の沼に到着。
シャボン玉が割れると、生まれたての子羊のように足をガクガクさせながら地面に四つん這いになり不思議水を飲むカエデがそこにいた。
チズコが葉をワサワサしながら笑う。
「意外と楽しかったわね」
「どこが!」
どうにかやっと立ち上がるとうどんから降りて吐いていたイーサンから睨まれる。ああ、うどん酔いしたのか。そりゃ、あのスピードならそうなる。でもこっちも酷い目に遭ったから……。
側にいる問題児の妖精3人に咎める視線を投げる。
「ギンちゃん、オハギ、チズコ……私を殺す気なん?」
楽しそうにしていた3人の妖精が申し訳なさそうにする。そんなに急にシュンとされると、なんだかこっちが悪いみたいじゃん。
「ごめんなさいなの……いい方法だと思ったの……」
オハギが謝ると他の2人も謝る。
「ごめんなさいだえ~」
「ちょっと遊び過ぎたわね。気を付けるわ」
移動が速いのは助かるけど、命を懸けたような移動方法は勘弁してほしい。
「次回からよろしく。私、不死身じゃないから。でも、今回は早く到着して良かった。ありがとう」
パッと3人の表情が明るくなる。死んでないし怪我していないから……まぁ、いいっか。今回だけだから、今回だけ。
双子はフェンリル乗車が楽しかったようで、うどんと共にジャンプしながら駆けていた。遊ぶうどんと双子の後ろには結構大きな沼が広がり反射した夕日が水面に当たってキラキラと光っていた。
「結構綺麗じゃん」
沼の半分は見上げるほどの蓮で覆われていた。蓮の葉は人が乗れそうなくらいのものから手のひらサイズまで様々だった。
リザードがいるって話だけど、見渡してもそんな魔物はどこにもいない。沼の水を叩いてみるけど反応はナシ。
「ギンちゃん、何か沼の中にいる?」
「いないだえ~」
オハギも特に反応なく、ユキちゃんは沼の水を普通に飲んでいるので大丈夫だよね?
沼の脇から手を入れ、小さめの蓮の茎を引き抜くと普通サイズのレンコンが付いてきた。
体内のものを全て吐いたのだろうイーサンがズカズカとやって来たので採取したレンコンを見せる。
「見て。凄いよね」
「……カエデ、お前の従魔は――いや、それよりあの玉はなんだったんだ? なんでお前は空を飛んでいた?」
「どこをどう見たらあれが空を飛んでいたって思うん? 引きずられていただけじゃん」
あんなのフライングカエデじゃないし、猛獣に繋がったバウンシングだから! デンジャラス玉だから!
「あれはカエデの魔法か?」
「違うけど」
「魔法でないなら、一体なんなんだ?」
「妖精の力――」
「あ?」
「あー、はい。カエデノマホウデス」
クッ。妖精と言っただけで、イーサンの表情が憐れみに変わった。凄い不本意だけど自分の魔法だと嘘をつく。黒煙シャボン玉のカエデとか変な二つ名付かないよね? イーサンには人にシャボン玉魔法のことは言わないようにと圧を掛ける。
「ああ、別に言い回すようなことはしない。だが、どういう魔法だ。あんなの見たことないぞ」
「み、水の魔法?」
「ギルドで登録した魔法の属性は土だろ」
「あー、ん」
「『ん』じゃねぇよ。嘘、下手くそなのかよ」
「本気で知りたいん?」
「……いや、いい」
イーサンに知りたいと返されてもマジカル妖精な話しかできない。
疲労で一気に年を取ったイーサンを見る。
「老けたね」
「やめろ。地味に傷つくだろ」
肉体的にも精神的にも疲れているだろうイーサンに不思議水を渡すと一気飲みした。
「それより沼にリザードいないじゃん」
「ああ、奴らはこの時間はまだ沼には現れない」
リザードはどこからともなく現れ、早朝から昼まで日向ぼっこをしながら身体を温める習性があるという。
野営地は沼から遠くに設置することになった。
「今日の野営はあそこでいい?」
ミラが沼から離れた場所にいるうどんとミロを指差しながら言う。
「ああ、あれくらいならリザードも襲ってこないだろう」
「やっぱり襲ってくるんだ」
「小柄だが噛みが強いから、沼には落ちないようにしろよ」
「ん? 沼に入るん?」
「ああ、一番ロータスは沼の真中にしか生えない」
「えぇぇ」
リザードの大きさはイーサンの腕くらいの長さだという。想像してた大きな蜥蜴だし。沼の中心には大きい蓮の花を使って移動するという。いや、もうそれ絶対沈むじゃん。
「俺が乗っても沈まねぇから、カエデも双子も大丈夫だろ」
「カエデ、大丈夫だよ。葉っぱの上でジャンプしても沈まないよ!」
ミラはそう言うけど、蜥蜴沼に落ちる未来しか想像できないんだけど。
「まぁ、一応、主はいるが何年も目撃情報はないらしいから大丈夫だろ」
「えぇぇ」
それ、お決り的なあれじゃないよね? ジャイアント蜥蜴とか勘弁してほしんだけど。明日のためにと回収した大きな蓮の葉。試しに沼の水の上で乗ってみる。
乗れる。乗れるんだけどさ……安定感ゼロ。
「確かに沈みはしないけど……不安しかないんだけど」
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