ユキと妖精のヒラメキ
イーサンの案内で到着したのはイーサンと双子が借りているという一軒家だった。
家の中は結構シンプルで必要な家具を揃えたという感じだ。オハギがパトロールするかのように匂いを嗅ぎながら部屋を隅々までチェックする。イーサンと双子にはギンと同じようにオハギの存在も見えない。オハギがテーブルの上のコップを床になぎ落とす。ちょっと! やめて。
「なんだ? コップが落ちたのか?」
イーサンが訝しげな顔でコップを拾うとオハギがドヤ顔をする。咳払いをしながらオハギを側へ呼ぶ。
「オハギ、ゴホゴホ、こっちに来て! 大人しくして」
オハギがゆっくりこちらに歩くと欠伸をした。妖精が自由過ぎてつらい……。
オハギも側に戻ったところで、ソファに座ると双子が両サイドにみっちりと引っ付いてきた。いいけど、なんか暑いし2人は準備しなくていいん?
「この2人、近すぎるの!」
自分の居場所を奪われたオハギが文句を言ったので、ギンと反対の肩に座るように促す。ムチッと肩の上に座ったオハギの尻の毛が頬に当たる。実際は全く重さを感じないけど、雰囲気的にでっかい猫が肩に乗っている感じが邪魔。左を振り向けばオハギの尻が目の前に現れる。なんで逆向きに座ってんのこのニャンコ。
ため息をつき、イーサンに尋ねる。
「で、さっきの状況はなんなん? シーラはどこ?」
「カエデ。悪いんだが、一番ロータスを採りにすぐに出ないければならない。事情を話したいが、戻って来てからでもいいか?」
一番ロータスとは午前7時頃、ほんのわずかな時間に花が満開に開いた時に採取するレンコンのことらしい。その味は絶品だがロータスのある沼にはリザードという魔物が生息、朝は日光を求め沼のいたるところで寝ているらしい。もちろん、お約束通りデンジャラス蜥蜴で日光浴を妨害すれば集団で襲ってくるという。そこまで食べたいレンコンなん? 少し興味はあるけど……。
現在の時刻はもうすぐ16時。イーサンたちは今から出発して徒歩で3時間ほどかかる沼で朝まで待機して依頼をこなすという。
「大体なんであんな依頼を受けたん?」
「……シーラのためだ」
なんであのおっさんギルド長の依頼を受けるのがシーラのためかよく分からないけど、イーサンからは焦りが伝わる。双子もなんだか落ち込んでいるようだし。
「ミロとミラも早く準備してくれ。終わったら直ぐに出発する」
「うん……」
「分かった……」
双子は返事をすると渋々と準備を始めた。ああ、もう!
「その依頼、私も行くから」
「「やった! カエデも一緒!」」
「あ? いや――」
喜ぶ双子とは対照的な顔のイーサンに向かって言う。
「シーラの話を明日まで待てないし、もう決めたから」
本当は蜥蜴パーティ開催中の沼なんかには行きたくないけど、明日まで悶々とシーラに何かあったのとかを考えたくないじゃん?
「分かった。だが、すぐに出発できるのか?」
「うん。余裕。このまま行けるし」
身軽な私を見ながらイーサンはなんだか複雑な表情をしていたけど私が依頼に付いて行くのを承諾する。大丈夫、必要な物は全部ギンちゃんが持ってくれているから。
準備が終了。イーサンが先頭を歩き、双子の後ろを徒歩で付いて行く。
双子の大きくなった後ろ姿になんだか感動する。大きくなったじゃん。
しばらくは普通に歩いていたけど、途中からユキがトロトロ歩くのが面倒になったようでイライラしているのが伝わった。
「ユキちゃんごめんて。でも大人4人いるし、無理じゃん?」
「ヴゥ―」
数十分ほど歩いてユキが前を歩いていた双子を掬い上げる。
「うわぁ!」
「きゃ!」
ユキの背中の上で驚きながら声を上げる双子。イーサンがなんとかしろとこちらを見る。そんな目で見られてもユキちゃんは常に自由行動だから。
「ユキちゃん、全員を乗せられないじゃん?」
「キャウン」
今度はうどんがイーサンを掬い上げ背中に乗せる。イーサンが下りようするがうどんが猛ダッシュしながらそれを妨害する。
「おい、これをなんとかしてくれ!」
いくらユキたちが大きく成長したからっていっても……ユキに双子、うどんにイーサンが乗った状態が2匹の限界でしょ。
こっちを無表情で見るユキを宥める。
「さすがに大人4人は無理だって」
「カエデ、荷台だえ~」
ギンちゃん……あの荷台でユキとうどんのスピードで進めないよ。たぶん途中で荷台が壊れてカエデがどこかに飛んでいく未来しか見えない。
ユキがオハギとギンを見ながら唸る。
「ヴュー」
「分かったの!」
「だえ!」
ん? 何? 何が分かったん?
ギンがチズコの入った一斗缶を出し胸を張る。なんで?
チズコが寝ぼけた濁声で辺りを見回しながら尋ねる。
「あら、ここはどこなの?」
何かコソコソと相談。その後、なぜか一斗缶に入ったチズコを持たされる。
「チズコ、やるの!」
「だえ~」
「カエデ、本当にいいのかしら? よろしくね」
「は? 何が? な・に・が?」
チズコが嬉しそうに笑い声を上げ投げキッスをすると、巨大シャボン玉が私の回りをゆっくりと包んでいった。
あ、嫌な予感がする。何をしようとしてるか知らないけど、やめて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます