石鹸
双子たちの後ろから注意するのはなんだかやけに爽やかなイーサンだった。あれ、この人こんな感じだったっけ?
「イーサン、久しぶり」
「久しぶりじゃねぇよ。その緩さ、相変わらず変わらないようだな」
まぁ、1歳しか年は取ってない。そんな大々的に変わっていない、はず。
「イーサンはなんだが爽やか度が増したじゃん」
「爽やか度……それよりカエデは一体今までどこにいた?」
タイムスリップ――説明がめんどくさい。
「ん。ちょっとね」
「言わないつもりか?」
「説明が難しいだけだし」
「双子にはちゃんと説明しろよ。この1年、ミロとミラがどんな気持ちでカエデを探していたか分かるか?」
双子を見れば、二人とも悲しそうな顔をしていた。ごめんて。でも、説明してもきっと分からないと思う。自分でもよく分かってないし。でも、心配は掛けたし……。
「ん。実は変なダンジョンが爆発してタイムスリップ――」
3人の顔がみるみるうちに怪訝な面持ちに変わる。もう! だから言ったじゃん!
「分かった。言いたくないのなら深くは聞かない」
イーサンが呆れたように言うと双子もうんうんと頷く。いやいや、これが事実なんだって!
「ん。もうそれでいいよ。それよりシーラは?」
「ああ、まぁ。その話はあとでな」
「ん。何?」
なんだかイーサンもだけど双子の表情も暗い。ん? 何があったん? 尋ねようとすれば上から威圧的な声が聞こえた。
「イーサン! 依頼だ。執務室まで来い」
階段の上にいた声の持ち主を見れば、やせ型でやけにギラギラした格好の中年の男だった。
イーサンが軽く舌打ちをして答える。
「今行く。ギルド長」
え? あれがガーザの冒険者ギル長なん? なんだかマルゲリータのような存在感もない細いおっさんって感じなんだけど……訝し気におっさんギルド長を見ていると目が合い馬鹿にされたように笑う。何、あいつ。
ユキとうどんに気付いたおっさんギルド長が目を見開く。
「それはフェンリルか? いくらで僕に――」
「ギルド長! 何か俺にお話があるのですよね?」
おっさんギルド長の言葉を遮り、イーサンが大声で言う。あいつ今、ユキたちをいくらで買えるか聞こうとしたん?
イラっとしたのが伝わったのか、ミロとミラに手を握られギンに顔をナデナデされる。イラつきは収まったけど、おっさんギルド長への嫌悪感は積もった。
イーサンが双子たちと執務室に向かおうとするので手を上げる。
「私も行くから」
「は? いや」
困惑した顔でイーサンが止めるのを無視して言う。
「私、か、楓の新しい風のカエデだから」
「なんだ。パーティメンバーがもう一人いたのならそう言わないか」
おっさんギルド長はアホなのか、疑いもせずに全員を執務室へと呼ぶ。
執務室に入れば、シックで整理された部屋だった。ギラギラしたおっさんの部屋だとは到底思えないほどの洗練された部屋だ。ここ、本当にこのおっさんの部屋なん?
おっさんギルド長が椅子に座ると、二十歳くらいの従者の男がおっさんの靴を脱がす補助をする。靴が脱がされた途端、異臭が部屋を漂う。なんで靴を脱いだ? 臭いじゃん。なんの時間よ、これ。
従者の男と目が合うと、その一瞬見せた鋭い眼光に悪寒がした。
「イーサン。僕、沼に咲く一番ロータスが食べたいから採って来て」
くちゃくちゃと何かを食べながら言うおっさんギルド長。
は? 何言ってんのこのおっさん。椅子にででんと座るおっさんを睨む。
「かしこまりました」
イーサンがすぐに了承。は? なんで?
「じゃあ、明日までに採って来て」
「それは……」
「出来ないの? んー、僕だって君のために今一生懸命いろいろしてるのに?」
「いえ、もちろん。採って来ます」
「うん。じゃあ、明日までよろしく。もう、行っていいよ」
ギルド長おっさんが虫を払うように言う。今すぐボコボコにしたい気持ちだったけど、ギルド長を殴ったとなると超絶ペナルティを加算されそうなので腹を立てながらも我慢して部屋を退散しようとすると止められる。
「そうそう、そこの少年。そのフェンリルたちを僕に売ってくれない?」
「ああ? 何言ってや――」
「おあああああ! ギルド長、申し訳ない。こいつは気性が激しんで、その話はナシで。すぐに一番ロータスを採ってくる。今日はもう行きます。カエデ、早く部屋を出ろ」
不機嫌マックスで執務室を出てイーサさんを睨む。
「何、あいつ」
「ここじゃ、だめだ。行くぞ」
納得しないながらもイーサンに付いて行く。
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