再会

 シャボン玉がギンの横にフワフワと浮く。


「少しだけ、この子にあたしの護りの力を分けたのよ」


 力を分ける……妖精ってそんなことできるん? どうやら昨日、ギンがチズコの頭の上に生えていた時に力を分けたらしい。いや、もうなんでもありじゃん!

 訝し気にシャボン玉を触ると弾力があり指が跳ね返された。


「このシャボン玉はギンちゃんが出したの?」

「シャボン玉? シャボン玉だえ~」


 ギンはシャボン玉と言うワードを気に入ったのか何度も復唱していた。

 ワサワサと小刻みに動くチズコの葉っぱは艶が出て微かに光を纏っている。葉っぱを凝視しているとチズコが尋ねる。


「光が気になるの? それならこれはどうかしら」

「ちょっと!」


 チズコから出た光の眩しさに思わず目を閉じる。目を開けると大型シャボン玉に包まれていた。何これ? ドンドンとシャボン玉を叩くが全然割れない。

 

「こんなもんかしら。昔のあたしだったら余裕で空を飛ぶこともできたのに。あん、でも若い身体には文句はいわないわ」

「そんな事はどうでもいいから早くここから出して」


 スパキラ剣を構えると、チズコが焦ったように言う。


「分かったわよ~。恩人に無礼は働きたくないわ」


 ワサワサと動きながら再び苦痛からの解放の感謝を言い始めたチズコ。


「あれは、ほとんどオジニャンコが助けたんだけどね」

「もちろん、全員に感謝してるわ。うふふ。今、出してあげるわね」


 チズコがシャボン玉を割ると無事に外に出ることができて一安心する。

 チズコがジッとこちらを見上げる。


「あたし、キヨシのこと知っているわ。貴女がどこから来たのかも。この子に教えてもらったから」


 チズコがギンを撫でながら言う。どうやら、チズコはキヨシと会ったことがあり私から同じ匂いがすると言う。同じ匂いが何か知らないけど。


「じゃあ、もしかして帰り方もわかるん?」

「魔石のエネルギーを利用するのでしょ? キヨシもそれを利用したけど……あたし、キヨシのことあまり好きではないわ」

「え? どういう意味?」


 少しの間を挟み、チズコが続ける。


「その話はまだしないわ。あたし、やっぱりまだ新品な身体に慣れていないから……もうしばらく土に潜るわね」

「えぇぇ、ちょちょ、ちょっと!」


 チズコは一斗缶によじ登ると土に穴を掘り自分を埋め、また無反応状態になった。言い掛けたことは最後まで言って!

 眠ってしまったチズコにギンが栄養玉を押し込み満足そうに言う。


「チズコ、元気になるだえ~」

「あー、了解。じゃあ、チズコを仕舞って出かけようか?」


 妖精、自由気まま過ぎなんでキヨシの話はまた後で尋ねることにするしかない。


 背伸びをしてギンとストレッチをしてから出かける準備をする。今日は双子に会えるといいんだけど。

 とりあえず、宿の受付に聞いたガーザの市場へと向かう。結構人がいるし、出店数も多い。

 八百屋に向かい、野菜をいくつか物色する。価格はロワーより少しお高いけど、そこまで大きな差はない。店番の少年に声をかけられる。


「見てるだけじゃなくて買ってよ」

「あー、じゃあ、そこの葉っぱの奴、人参、きゅうり、それからオクラをお願い」


 了解と言いながら少年が注文した野菜を集める。


「これも入れて銅貨1枚でいい?」


 少年が手に持つ泥だらけの棒を見て顔を顰める。


「何それ?」

「ロータスだよ。この辺の沼で採れるやつ」

「見せて」


 あ! これ、レンコンじゃん! いるいる。

 銅貨1枚を払い、市場を歩く。途中、服も物色するけど、相変わらずサイズが合わないけど奇跡的に発見した子供用の上下のシャツとズボンを購入する。


「ギンちゃん、肉は後どれくらいある?」

「カエル肉がたくさんあるだえ~」


 肉は、今日はいいや。

 いい匂いのするお好み焼き屋みたいな店を通り過ぎるけど、賊の毒事件のこともあるから外で食べるのは警戒中。


市場の人に聞き込みをしたけど、双子たちのめぼしい情報はなし。やっぱり、冒険者に聞くが一番なん? 受付嬢じゃない人たちに聞くか。


 冒険者ギルドに到着、聞き込み開始すぐに冒険者の男から答えが見つかった。見つかったというか情報を喋る代わりに酒を奢らされてんだけどね。情報料だと思えば別にいいけど。


「はい。ご所望の酒を2つ買って来たから」

「おお、気が利くな」


 冒険者の男が最初のジョッキを一気飲みする。


「ん。それで双子がどこにいるか知ってるん?」

「ああ、あのパーティなら昨日依頼に出かけたな。今日には戻ると聞いた」


 それなら、普通に冒険者ギルドで待てば会えるんじゃね? 

 そう思い冒険者ギルドに一人座ったまま4時間……ちょっと考えていた作戦とは違う。ギンとオハギはチズコを出してその辺りで楽しく騒いでいるけど、傍から見ると一斗缶の前でずっと座っているカエデだから……ユキとうどんの存在も加わって他の冒険者には変な距離感を取られている。

 一旦宿へ戻ろうかと思ったら、双子がギルドの入り口から入って来るのが見えた。少し大人になっているけど、間違いなく双子だ。


「ミラ! ミロ! 久しぶり!」


 立ち上がり笑顔で手を振ると、2人とも停止して目を大きく見開いた。


「「カエデ!」」


 双子が猛ダッシュで突進、何かにぶつかり尻もちをつく。薄い灰色の粘膜のような壁、これオハギの黒煙じゃん。


「敵なの!」

「ミラとミロだえ~」


 ギンがチズコから伝授されたシャボン玉を広げるとオハギの黒煙の壁にしみこむように穴を空けた。オハギのほうが強い妖精の力があるはずなのに、シャボン玉は薄いとはいえオハギの黒煙の壁を突き抜けている。ギンちゃん凄い。

 オハギが床に尻もちをつく双子を見ながら言う。


「友達なの?」

「そうだえ~」

「ごめんなの……」


 オハギが灰色の壁をすぐに仕舞い、項垂れる。


「オハギ、大丈夫だから。知らなかったんだし」


 辺りにいた全員の視線は尻もちをついている双子に向けられていた。見る限り、一瞬の出来事で誰も特に灰色の壁にもシャボン玉にも気づいていないようだ。


「大丈夫?」


 2人に手を貸し、立ち上がったミロとミラを見上げる。ん? なんかデカくね?


「うわっ」


 ミラが胸元に突進、ギュッと抱きしめられる。


「カエデ、カエデ――」


 過呼吸を起こすかのようにミラが何度も私の名前を呼ぶ。仕方ないなとポンポンとミラの背中を叩くと、隣にいた目を赤くしたミロと目が合う。


「ミロも久しぶり」

「カエデ!」


 ミロにもギュッと抱きしめられると、足が少し浮く。異世界の成長、人も妖精も早過ぎ。

 私の中で2人と離れていた期間は1か月弱なんだけど、実際は1年以上経っている。以前は12歳だった2人も今は13歳のはず。冒険者の書類は偽造したので、偽造年齢は15歳になっていると思うけど。でも、日本人の私から見たら2人とも17歳くらいに見える。本当、成長し過ぎじゃね? どうりでいつまでもこっちは少年扱いなんだって。


「2人も元気だった? そろそろ離し――」

「う、うん。カエデ!」


 ミラにハグされ抱き上げられる。ちょっとやめて、やめて。


「お前ら、その辺にしてあげろ」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る