新しいチズコ

 すでに少し成長していたチズコは、さらに大きくなると入っていたコップを破壊して楕円形のラグビーボールと同じサイズまで成長しててーぶるに零れ落ちた。

 急成長過ぎじゃね? 以前に見たサイズまで大きくなるなら普通に飼えないんだけど……。

 全く動かないチズコを少し眺める。これ、生きてるん?


「ギンちゃん、とりあえず一斗缶出して」

「だえ~」


 一斗缶を不思議水で綺麗にしていると、ボタボタと床に土を零しオハギがドヤ顔で言う。


「土なの!」

「それどこから持って来たん?」

「あそこなの!」


 オハギが後ろ脚で指を差した窓の外を見れば、地面には立派な穴が空いていた。土なら私が持ってるし、勝手にギルドの敷地から掘って来るのやめてと注意するが、自分の持って来た土を一斗缶に入れると言い張るオハギ。


「もう! 分かったから早く入れて」


 ドバドバと一斗缶に土を入れて満足顔のオハギを横目に、テーブルに横たわるチズコを触るのを躊躇する。これ、触っても大丈夫なん?


「触っても大丈夫だえ~」


 ギンちゃん、信用するよ? グッとチズコを掴む。


【アンッ】


 爺さんの猫なで声が頭の中で流れ、ゾッとしてチズコをテーブルに落とす。


「何、今の? まさか……チズコ?」

【落とすなんて酷いわね】


 チズコが立ち上がり、根っこをうねうね動かしながらクネクネして言う。声の感じは完全にお爺ちゃんだけど。ワサワサと小刻みに動く葉っぱに素直な気持ちを伝える。


「葉っぱの動き、キモッ」

【酷いわね。これでも昔は絶世の一輪と言われていたのよ】

「チズコ~」


 ギンがチズコの元へテクテクと走ると、チズコは葉っぱでギンを包み頭の上に置いた。ギンはそのまま根を張ると動かなくなった。え? 何これ、どういう状況なん?

 オハギがクンクンとチズコの匂いを嗅ぐと、興味を失ったかのように毛繕いを始めた。ユキとうどんも床に座ったままチズコをジッと見るだけで特に警戒はしていないようだ。

 ヤングコーンの頭の上に生えるキノコ。この構図、これで正解なん?


【心配しなくても、この子にはお礼をしているだけよ】

「勝手に思考を読むのやめて普通に話してくれる?」


 チズコが分かったと咳払いをしながら声を出す。


「ア、ア、ア~。あら、久しぶりに声を出すけど美声ね。惚れたらダメよ」


 濁声の戯言は無視して、チズコを観察する。数日前よりかなりぽっちゃりで艶が出ている。あの弱弱しい植物と同じものだと思えないほどの回復だ。勝手にギンがチズコと名前を付けたけど、そう呼んでいいん?


「チズコ、いい名前だわ。あたしにぴったり」

「まぁ、気に入ったんならいいけど……えーと、私はカエデで――」

「知っているわ。カエデ、ギン、オハギ、ユキ、うどんでしょ? 貴方たちには感謝してるわ。以前のあたしの身体をあの悍ましい苦痛から救ってくれてありがとう」

「以前の身体?」

「そう、あたしは生まれ変わったのよ。ピチピチのチズコよ」

「あ、そう……」


 チズコは頭からギンを取り外すと優しくテーブルに置き撫でた。


「だえ~」

「うふふ。そうね」


 何かしらの妖精トークをしているようだ。一通りギンとの話が終わるとチズコが私を見上げる。


「新品な身体にはまだ慣れていないからしばらく土に潜るわね」


 一斗缶によじ登るとチズコは土に穴を掘り自分を埋めた。シュール過ぎるし。チズコに声をかけたけど無反応状態に戻った。


 あー、また妖精の自由行動だよ。


「ギンがチズコの世話をするだえ~」

「うん。よろしくギンちゃん」

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