違和感

「イーサン様のパーティ『楓の新しい風』宛じゃないの?」

「……ううん。それであってる、たぶん」


 パーティ名は双子が付けた可能性が高い。絶対あの二人でしょ? 恥ずかしいじゃん! イーサンよ、なぜ止めないん?


「カエデの風なの?」

 

 眠っていたはずのオハギが興味津々に言う。

 オハギ……なんでこのタイミングで起きるん?


(オハギ、起きたの?)

「オハギ、起きたの! カエデの風なの!」

「カエデの風だえ~」


 やめて。

 冒険者ギルドを出る前に依頼のボードを見に行く。


「え? 何これ?」


鉄級 リョウシュテイソウジ(女のみ)銀貨1枚【ポイント50】

銅級 沼リザードトウバツ 1匹半銅貨【1匹半銅貨ポイント3】

銅級 チンミ採取 ソウダン【1個にツキポイント15】

銀級 ソウダン


 なんかおかしくね?

 大荷物を持ってボードの前にいた男女数人のグループの一人の女に声をかけられる。


「さっき盗み聞きしたのだけど、あなた、今日この街に到着したのでしょ?」

「そうだけど?」


 女が辺りを見回しながら耳打ちをする。


「別の街に移動した方がいいわよ。ここのギルドは変になってる。私たちも、今日ここを立つの」

「え? 何が――」

「スザンナ! もう行くぞ」

「伝えたわよ。じゃあね」


 仲間の男に呼ばれギルドを去っていくのはいいけど、なんにも伝えてないし。でも、このボードや受付嬢を見る限り確かに変……ううん。超絶、胡散臭いじゃん。

 受付嬢は当てにならないから、双子は自分で探したほうがよさそう。


「オハギ、人探し得意なの! 臭い嗅いだ人ならすぐ探せるの!」

「ありがと。でも残念だけど、オハギの知らない人たちだよ」

「うーん。うーん」


 モヤッとオハギから黒煙が漏れる。オハギ! デンジャラス黒煙やめて!


「ちょちょちょ。オハギここではやめて。いいから、地道に探すから」

「分かったの!」


 冒険者ギルドを足早に去る。

 とりあえず、ギルドの宿に覗いてみる。


「ヒュー。でっかいワンコじゃねぇか。ほらほら飲めよ」


 入ってすぐ、知らない冒険者に酒を押し付けられる。


「いらないから」

「そういうなって、ほら飲めよ。」


 完全に酔っ払いじゃん。

 面倒なので酒が受け取り、男が見ていない間に窓から中身を放り投げ礼を言う。


「ありがとう。美味しかった」

「おおう? もう飲んだのか! もう一杯飲め。あんたもどうせ依頼なんてないんだろ?」


 男が酒を買いに行く間にさっさと宿の受付に向かう。


「今日、部屋空いてる? 大型の従魔いるんだけど」

「おお。ウルフにしては大型だな。その大きさなら小屋を使うか大部屋だな。大部屋使うなら一泊銅貨2枚で6人分の代金になるから銀貨1枚銅貨2枚になるがいいか?」


「うん。とりあえず一週間分で」


 記帳に名前を漢字で書き、受付に銀貨8枚銅貨4枚を払う。84000円くらい? 結構な出費じゃん。でも、初めての場所でユキちゃんたちを小屋に入れて離れるよりはマシ。


「お湯ってもらえる?」

「ああ、半銅貨だ。後で届けさせる」


 追加の半銅貨を支払い、鍵を受け取りそのまま部屋へと向かう。部屋は一階部分の奥にあった。


「へぇ、結構広いじゃん」


 6人用と言われた大部屋にはベッドが6個、テーブルやソファに軽く調理ができる場所が付いていた。風呂屋トイレは相変わらずないけど、これならかなり快適に過ごせそう。いいじゃん。


「ユキ、うどん、好きなベッドに寝ていいよ」


 ユキとうどんが早速ベッドを選ぶのかと思ったら、向かった場所はソファ。いや、二匹の大きさでソファは無理だって。


「オハギはここがいい!」


 オハギは真ん中のベッドで陣を取り満足そうに背伸びをした。


「ギンちゃんはどうする?」

「ギンはカエデと一緒だえ~」


 ギンちゃん! ギンに頬ずりをする。

 窓辺に近いベッドで仰向けに寝ているとお湯が届いたので、身体を洗う。その間、ユキとうどんは床に丸くなりひと眠り。ギンとオハギはチズコの世話をしながら変な歌を歌っていた。


「チズコ~天井突き抜けるくらい大きくなれ~だえ~」

「この部屋を壊すくらい大きくなるの!」


 やめて。


 さて、ガーザですることは双子たちとの再会以外特にない。目指すは王都なので、この街で少し王都の情報を得ておくのもいいかな。正直王都への行き方とか何も知らない。地図では見ているけど、距離感もいまいちだし。

 時刻は12時を過ぎ。


「とりあえず昼ご飯かな」


 せっかく調理ができるところもあるし、ここで作ろう。


「ギンちゃん、お肉と野菜出して」

「だえ!」


 ギンから大量のカエル肉を受け取る。カエル肉……そうだった。これめっちゃストックあるじゃん。ぶつ切りにされてるから普通の鶏にしか見えないからいいけど。


「ユキちゃんたちはオークね」


 ギンから出したシートを敷き、そのうえで二匹にオークを与える。

 調理場で醤油を使ってカエルと野菜のソテーを作る。


「結構いい匂いだし」


 これなら余裕で食べられそう。カエルのソテーを皿に移し口に入れる。


「全然いけるじゃん」


 カエルのソテーを完食、腹いっぱいでベッドへ横になっていると窓際に置いてあったチズコのヤングコーンを包み込むように葉っぱが生え始めた。


「は? は? 何これ?」

「チズコが大きくなるだえ~」

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