囲まれたカエデ
時刻は朝の9時。ガーザの街の門へと到着した。列はそんなに長くないので直ぐに入れそう。それはいいんだけど……隣で満足そうに列に並ぶユキを肘で突く。
「もう、ああいうのはナシでお願い」
ガーザの街には昼頃の到着を予想していた。ユキが崖を走り下りする選択を選んだのでかなりの時間短縮で門に到着しただけ。アラサーの失禁をするところだったんだけど! ユキを睨むが、フッと笑い返される。ユキちゃん、濡れ犬になりたいん?
この時間でも街に入る列は20番目くらい。ユキとうどんの首に従魔用の印の札を着ける。この札はロワーの街の冒険者ギルドで登録した時に受け取った物で、街に入る時だけユキとうどんに着用してもらっている。
相変わらず、周りはユキたちを見てコソコソと何かを言っているけど気にしない。ラッキーなことに私たちの前にある大量の作物を積んだ荷馬車のおかげでその噂話も最小限に済んでいる。
荷馬車が右側の検問に呼ばれ移動すると、なんだかチャラい声の門番に呼ばれる。
「はいはい。次々」
こちらを見もせずに欠伸をする二十代前半のやせ型の門番の態度は気になったけど、新しい街での面倒事は嫌なので大人しく挨拶をしてタグを渡す。
「はい。これ、お願いします」
「あー、はいは――い? は?」
差し出した銀級のタグを受け取らずに、口を開けながらユキたちをガン見する門番。ああ、今さらユキたちに気づいたん?
「お、おう? こいつらフェンリルか?」
「うん。そうだけど」
「初めて見るな。本当に白いのだな。登録は――」
門番が何かを訴えてくるように目をあわせてくる。
「何?」
「従魔の首の登録印を確認したいのだが、なんだか噛まれそうなんであんたが取ってくれ」
ユキは敵意や悪意がない限りスッと避けるだけだと思うけど、噛みつかないって保証はできない。従魔の粗相は主人が罰金を払うって誓約書に署名した手前、一応気をつけている。でも、私は別にユキやうどんの『ご主人様』ではない。2匹は家族のようなものだし。
ユキとうどんの登録印を取り、門番に見せる。
「あと、これ、私の冒険者タグ」
「ども。おお、若いのに銀級の上ってすげぇな」
門番は銀級のタグの裏表を見ながら感心するように言うと、確認をするために奥の小屋へと入っていた。
少ししてヘラヘラと手を振りながら戻ってきた門番に冒険者タグと登録印を受け取る。
「じゃあ、ガーザの街を楽しんでいってくれ」
「冒険者ギルドってどこにあるん?」
「門を通ったら案内の看板があるからそこで確認してくれ」
門番と別れガーザの街へ入ると途端に売り子たちに囲まれる。ちょっと!
「今日の宿は決まったのか?」
「ガーザの焼き芋だよ。買って損はないよ」
「長旅疲れただろ、新鮮な水はどうだ!」
ユキとうどんがいてもお構いなしにどんどん詰め寄ってくる売り子たち。
辺りを見れば、門を通った他の人たちも売り子に取り囲まれている。慣れている人は蝿のように蹴散らしながら売り子ゾーンを通り過ぎている。
「お芋だえ~」
私も無視して先を進もうかと思ったけど、ギンちゃんが芋を欲しそうだ。芋1個くらいなら買ってもいいか。
芋を売る中年の女性を指差しながら言う。
「芋だけ買うから、他はいらない」
他の売り子は舌打ち後に蜘蛛の子を散らすかのように去り、次のターゲットへと向かった。
「芋はいくつ欲しんだい?」
「一個かな」
「なんだい、なんだい。けち臭い事を言わずに5個買って! 1個で半銅貨だけど5個銅貨2枚でどう?」
「普通にクソ高くね?」
ロワーの街よりも大きい街なので物価は高いかもしれないけど、銅貨1枚でロワーの冒険者ギルドの宿に一晩泊まれた。売り子の籠に入っている芋を見る限り、甘い芋でもなさそう。普通の芋じゃん! 甘い芋でさえ十数個入った小箱がロワーでは銅貨1枚だった。
「ないだい? 金がないのかい?」
「うん。金ない」
「かぁー」
痰を絡ませるような音を鳴らし女性は足早に去って行った。
別に金はたんまりとある。この世界に来てから貯まる一方だし。ただそんな詐欺芋を買う金はない。
芋が去って行くのを見てシュンとするギンを慰める。
「ギンちゃん、ごめん。後で甘い芋で焼き芋でもしようね」
「だえ!」
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