フォーリング近道
翌朝、まだ日も登っていない時間帯に起きる。気分は結構すっきりしている。ギンはまだ根を張っていたのでチズコと一緒にキャンプチェアの上に置きテントを畳む。
ユキはパトロールに行ったのか、外にはうどんの姿しか見えない。
昨晩はあり得ないくらい静かだった。もしかしたらこの山は魔物がいないのかも……そう思うほど何も音がしなかった。おかげでこっちはありがたく熟睡できた。
魔物いないのは大歓迎だけど、なんか変な気分になる。
背中で丸くなるオハギを確認。起きる気配はないけど、ギンはオハギは大丈夫だと自信いっぱいに言っていた。妖精のことはよく知らないのでギンが大丈夫と言えば大丈夫、たぶん。
顔を洗っているとユキがどこからとなく現れてドサッと何かを地面に置く。ユキちゃん、これさ私の近くに置く必要あった?
目の前で見たことのない動物が痙攣しながら喘ぐ。ユキちゃん、素晴らしい朝をありがとう。
「ユキちゃん……これ、なんなん?」
謎の動物を光で照らし、棒で突きながら仰向けにひっくり返すとカピバラみたいな生き物だった。頭には角が2本生えてるし、魔物っぽい。普通に魔物いんじゃん!
しばらくするとカピバラの痙攣は止まり、ユキとうどんが大口で美味しくいただく。途中、うどんがカピバラの足をおすそ分けに来る。暗くても血がポタポタと落ちるのが見える。
「うん。普通にいらないし。うどんが食べて」
「キャウン」
「あ、遠くで……食べて……」
バリバリと距離感ゼロでうどん咀嚼音が聞こえる中、昨日作った夜食のスープを食べ腹ごしらえをする。スープは美味いけど景色は血みどろ。やめて。
ギンがモソモソと栄養玉から降り、肩の上に登る。
「おはようだえ~」
「ギンちゃん、おはよう」
「チズコも起きただえ~」
そうなん? ピンクのヤングコーンを見るが、特に動きはない。あ、でも、チズコの栄養玉は大きさが一回り小さくなったような気がする。一応生きてるんだ、このヤングコーン……とりあえず、チズコに不思議水を掛ける。
「これでいいん?」
「いいだえ~」
ギンの中にテントとチズコを収納、ユキに跨りガーザの街へと向けて出発する。迂回するし昼までに到着できたらいいな。
「ユキちゃん、崖を回って――って! ちょっと!」
私の指示を無視してユキが崖に向かいそのまま勢いよく飛び降りた。浮遊感に加え暗く見えない崖の下が目の前に広がると、まるでブラックホールに吸い込まれる感覚に陥る。
「ぎゃああああ! やめてぇぇぇぇ」
カエデの叫びが森にこだました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます