ガークの家

 マルゲリータと話をした数日後、ガークがロワーの街へと戻って来た。いろいろ問い詰められそうになったが、オスカーの書状をオラオラと見せつけたら睨まれた。


「それを免罪符のように扱うな。ギルド長に聞いていたが本当だったとはな」

「うん。だからガークの疑問は一先ず置いておいて」


 ガークは信頼している。けど、この私にも分からない闇に巻き込む必要はないと思う。私も巻き込まれたくなくて逃げようとしてるし。


「明日、ロワーを出発するというのは本当か? 随分急だな」

「うん。双子のことも気になるし。王都にも……早く向かえって言われたし」

「そうか……カエデ、今晩はうちに来い。ローザがご馳走を作っている。子供たちもお前に会いたがっている」


 ガークが戻るまでの数日の間に銀級の上のタグの更新、バッタ討伐の色を付けた報酬、マルクスだと言った賊の詳細の説明、それから肉や野菜の買い出し等を済ませた。肉屋のマイロにしばらくの別れの挨拶をすると、オーク肉をおまけしてくれた。

 特に他もやることもないし食事を承諾してガークと別れた。

 ガーザに向かう前に冒険者ギルドで口座にお金を入金する。たくさん持っていても仕方ないし。


「ありがとうございました。こちらが明細になります」

「は?」


 明細には金貨220枚、銀貨5枚と書かれてあった。あれ、金貨10枚しか入れてなかったんだけど、何これ。ギルド職員に聞けば、コリンからの入金だという。


(あ! 賊のお宝のやつか!)


 完全に忘れていた。異世界に来てから金がどんどん入るんだけど、どうすんの、これ。明細をギンに仕舞い、冒険者ギルドを出る前にマリナーラに挨拶をする。まぁ、一応世話にはなったし。


「明日、旅立たれるのですか~。寂しいです~」

「うん。いろいろありがとう」

「いつでも戻って来てください~。おば、ギルド長も喜びます~」

「はは……は、うん。じゃあ、元気でね。バイバイ」


 マリナーラに手を振りギルドをあとにしようとすれば、チラチラと視線を感じる。何かをごちゃごちゃと冒険者がうるさく言っていることに耳を立てる。


「あんなのがか?」

「黒煙のカエデって二つ名ほんとかよ」

「お前らはあの場にいなかったから、んなこと言えんだ、あれはバケモンだ。黒煙のタダノ・カエデだ」


 やめて。

 その黒煙のカエデやタダノ・カエデを流行らそうとするのやめて。噂をしていた冒険者の元へ歩き、全員を見下ろす。


「こ、黒煙の――」

「やめて」

「タダノ――」

「やめて」


 ジッと無言で噂をしていた冒険者たちに圧を掛ける。


「カ、カエデ」

「ん。それでよろしく」


 それだけを伝え、冒険者ギルドを後にユキたちの散歩に出かける。

 

 ユキたちの散歩が終わり、宿でガークの家に出かける準備をする。マルゲリータにいつまでも家に泊まっていいと誘われたが、恐ろ――遠慮した。またモーニング奇襲されそうだし宿はちゃんと取った。


「ギンもこれ、これ」

「ギンちゃん、これがいいの?」


 布の端切れを頭に被せるギンが可愛い。ギンに布をきゅっと巻くとマントのようになった。可愛すぎる。

 ガークの家に着きドアをノックすると、勢いよく開いたドアからショーンとトーワが元気に走りぶつかるように抱きついてきた。ガークが二人を叱る。


「おい、家の中では走るな! それに勝手に扉を開けんじゃねぇ!」


 ショーンもトーワも前に見た時よりも成長していた。特にショーンは以前のやせ細った青白い顔でなく、こんがり焼けたふっくらとした顔に変わっていた。不思議水凄すぎじゃない?

 子供たちはガークに怒られると、謝りながら家の奥へ楽しそうに走って行った。


「すんごい元気じゃん」

「ああ、以前のショーンからは考えられなかった光景だ。カエデ――」

「お腹空いた~」


 ガークがまた礼を言おうとするのを遮る。もう何回も礼はしてるし、いいって。勝手にダイニングへと進み、ローザに挨拶をする。


「カエデちゃん、久しぶりね。ガークの帰還もだけど、久しぶりの再会が私も子供たちも嬉しくて。生きていてくれてありがとう」


 目に涙を溜めローザさんが言う。一回しか会ったことなかったのに、そう思ってもらえることが妙に嬉しくて日本にいる家族のことを思い出してしまう。ガークが驚きながら尋ねる。


「カエデ、泣いてんのか?」

「泣いてないし」

「泣いてるだろ」


 しばらくグズグズと鼻水を啜っているとショーンとトーワとギンにナデナデされる。


 アラサー女 慰めるのは 子とキノコ


 カエデの心の川柳だ。

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