ホテル●●の巣窟
現在の時刻は17時。なんだか物凄く疲れた。野宿か……トボトボと歩いていると後ろから声を掛けられる。
「あれ~こんばんは~」
この独特な語尾……振り向けばマリナーラがいた。それから巧みに宿がないことを聞き出され、あれよあれよという間にマリナーラの家へと連行――連れて行かれた。マリナーラの家は二階建ての一軒家で領主邸から凄く近い場所にあり庭も広い。待って、豪華というか……かなり金のありそうな家じゃん。これって……
「ここってもしかしなくてもマルゲリータの家?」
「そうです~」
「あ、帰るわ」
「どこにですか~? 宿もないのに~。フェンリルたちはもう寝ていますよ~」
外にある大きなテーブルの上でくつろぎながらユキが欠伸をする。ユキちゃん、何それ。
「ちょっと、勝手に人の家のテーブルに上がらないでって!」
「大丈夫です~。外の家具なので問題ないです~」
なんだか余計に疲れた。ユキたちが占領するテーブルの横にある椅子に腰を掛けため息を吐く。もう疲れも限界だし今日は世話になることにした。歩く元気もないし。
マリナーラに準備してもらった部屋のベッドに仰向けになり天井を眺める。
「カエデ~元気だすだえ~」
ギンが慰めながらヨシヨシをしてくれる。それを眺めていたらいつの間にか寝ていた。
◇◇◇
朝、目が覚めるとマルゲリータの顔が目の前にあった。
「ぎゃあああああ」
ベッドから飛び上がり部屋の隅まで逃げる。
「驚き過ぎではないかしら」
「いや、誰だって驚くって。ここで何してんの?」
「ここは私の家ですから」
「確かにそうだけど、勝手に寝顔を見るのはナシじゃん」
「ええ、それについては謝罪します。朝食を作りますがいかがですか?」
「じゃあ……いただきます」
なんだか朝食をしないといけない雰囲気だったので準備をして大人しく指示されたテーブルへつく。マリナーラはどうやらすでに仕事に出かけたようだ。二人きりって……すぐに美味しそうな匂いがしてマルゲリータが朝食の載ったトレーを目の前に置いてお茶を注ぐ。朝食は卵にソーセージとパン、それから豆のスープ……どれも美味しかった。
食事が終わると、マルゲリータが真剣な顔で尋ねる。
「あなたに聞きたいことがあったからここにいるのは都合よかったわ」
そんな質問なんて答えないから。昨日もらったオスカーからの書状をマルゲリータに見せ勝ち誇った顔をすれば、速攻で書状を奪われた。
「えぇぇ。何、今の動き。全然見えなかったんだけど」
「私もまだ劣ってないってことでしょうか。今はこの書状のことは忘れましょう」
いやいや、それはズルくね?
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