アラサーの子供
ロワーの街が見えてくると門の前には私兵や門番に冒険者が大量にいた。ユキが休みなし、カエデのこと関係なしにフルスピードで走ったのでかなり早く街へと着いた。途中、ギンの臭い魔石探知能力のおかげで、地面に埋められていた赤黒い魔石は全部撤去と浄化をすることができた。浄化と言っても不思議水を浸した一斗缶にポイポイしただけだけど。赤黒い魔石のほとんどは小さなサイズだったので、不思議水もそこまで必要ではなかった。良かった。
うどんに乗る私兵に声を掛ける。
「お、送ってくれて……か、感謝する」
連絡係の私兵を途中で発見したので、ついでにうどんに乗せて街まで一緒に連れて来たんだけど……なんかうどん酔いしたみたいで、急いで下りると地面にいろいろぶちまけていた。カイよりも少し年上だろう私兵の青年は道中、ヤコブと自己紹介をされた。
「ヤコブ、大丈夫なん?」
「ああ、大丈夫だ」
私兵などで固められたロワーの街の入り口を双眼鏡で覗けばフェルナンドがいた。私兵に見えるところまで進みユキの上に乗り手を振る。コカトリス仮面はちゃんと外しているけど、全員が構えながら警戒をしている。フェルナンドに向かって手を振る。
「おーい。こっちこっち」
「カエデさん、フェルナンド様だ。フェルナンド様」
ヤコブが隣で焦りながら顔を青くする。
フェルナンドが私に気付いてくれたのか手を上げるのが見える。弓を構える私兵を止めたのでユキに座り、門まで走る。フェルナンドが私を少し凝視した後にほんの少し笑う。
「カエデ、本当に生きていたのだな」
「最近その質問ばっかりされるけど、この通り元気です」
ヤコブが地面に片膝を突きフェルナンドに手紙を渡す。
「ご苦労だった。しっかり休め」
「ありがとうございます」
フェルナンドがすぐに手紙を確認、目を見開きながじっくり内容を確認すると溜め息をつきながら私兵に指示を出す。
「ローカストの脅威は去ったが、賊はまだ潜んでいる可能性がある。体勢を変えそれぞれの隊長に従い行動しろ」
私兵や門番がロワーの街に戻る中、私も門を潜ろうとすればフェルナンドに笑顔で止められる。
「どこへ行くつもりだ」
「え? 冒険者ギルドに向かおうかと。ガークに手紙を預かっているので……」
「マルゲリータ殿の元か。丁度いい、彼女は領主邸にいる。カエデが現れた際には領主の元に連れて来る命も出ている。好都合であろう。さ、行くぞ」
何その領主の元に来いって命令。全然好都合じゃないんだけど。フェルナンドから笑顔の圧を感じたので渋々と付いて行く。
領主邸に到着すると、数か所に争った跡が見えた。私の視線に気づいたのかフェルナンドが争い後について答えてくれる。
「領主邸の配達に紛れてきた賊の仕業だ」
「大丈夫だったんですか?」
「ああ、マルゲリータ殿が丁度領主とお茶をしていたのでな。全員、マルゲリータ殿によって捕縛された」
「え? 一人で?」
「ああ、ああ見えて恐ろしいほど強い女性であるからな」
恐ろしいのは分かるけど、そこまで強いとは思っていなかった。凄いじゃん、マルゲリータ。
捕らえた賊によると、あの拷問されて殺された領主邸の使用人から内情や位置関係はすでに把握しており、バッタパニックの最中に領主を狙って来ていたそうだ。バッタ竜巻が討伐されたことで計画は中途半端のまま遂行されたのだろうとフェルナンドは言うけど……まぁ、実際はあのモンスターフラワーをけしかけている最中に領主を殺めるつもりだったんじゃない? 賊が期待していたパニックは起こることがなかったけど。
「そこまでして領主を狙うん?」
「ロワーの領土が欲しい者の仕業であろう」
フェルナンドは最近ロワーの領土に現れたダンジョンを奪いたいのだろうと言う。そんなためだけにあんな大がかりなモンスターフラワーを準備する? 割に合わなくない?
ユキとうどんは庭で待機させられ、私はフェルナンドに謁見の間へと連れて行かれる。
「え? この汚い格好で領主様に謁見するのはちょっと……」
自分を見れば垢まみれで汗臭い。以前領主邸を訪れた時はあんなに着替えさせられて注意されたのに!
フェルナンドが私の格好をジッと見る。
「確かに汚れているが、心配することはない。兄上も子供には寛容だ」
「子供じゃないし」
「クク。冗談である。きちんとした立派な女性だ。領主様からの大事な話を大人しく聞くように頼むぞ。できるか?」
この言い方、完全に子ども扱いじゃん!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます