後は任せた

 いろいろ情報を整理する。マルクスが不思議水を持っていることから、死の森の中にある奇跡の泉を訪れたことがある可能性が高い。そして、水の魔石のネックレスの持ち主を知っていた。セオドリックだっけ? あの湖の近くで刺されていた遺体はセオドリックの可能性が高い。バッタ竜巻には黒幕がいること。妖精と魔物を融合した赤黒い魔石。セオドリックが恨むあいつ……あと、妖精が視える……魔人……。


「ん。頭痛い」


 考えるのやめよ。マルクスがほぼ死んだと思うので私への脅威は去ったはず……だよね? いや、賊はウジ虫のようにわらわら湧いてくるから、気をつけよう。マルクスがいなくなっても『首残しのウルフ』が壊滅したわけではないじゃん。

 さて、銀級のタグのこともあるし、本気で戻らないと今回の苦労が水の泡になる。


「ガーク、私、ロワーの街に戻るから」

「そうか。なら、これを頼まれてくれるか?」


 ガークに手紙を渡される。


「何、この手紙」

「ギルド長宛の手紙だ」

「えぇぇ」

「どうせ逃げられないぞ」

「ん。分かった」


 確かにマルゲリータとは今回の妖精のことについて話があるし、会う必要はあるので渋々手紙を受け取る。私兵の一人は一時間前ほどに援軍を呼びに街に向かったらしい。エミルたちが到着したとしても、怪我人、賊の護送、マルクスと蜘蛛ゾンビの捜索と後始末は多い。こういう時には冒険者は楽で自由だ。

 手を振りユキに跨ろうとすれば、ガークが神妙な面持ちで私を真っ直ぐに見る。


「今回の件で俺はカエデにいろいろ疑問がある」

「そうなん?」

「お前、その返事はなんだよ。俺は真剣なんだぞ」


 呆れたようにガークが笑う。


「あ、魔族とか魔人じゃないから」

「魔人ってなんだよ」


 ガークは魔人について知らないのか。


「私も知らない」

「カエデと会話していると頭痛がする。俺が一番聞きたいのはその剣のことだ。その錆びた剣、戦いの途中で地面からお前の手に飛んだのを確かに見たぞ。それに光ったようにも見えた」


 やっぱり分かったよね。スパキラ剣を取り出しガークに見せる。


「これ、スパキラ剣って言うんだけど、私の相棒。ガークだけに秘密を見せてあげる。実はスパキラ剣は撫でられるのが好きで、こうやって撫でると――」


 スパキラ剣をシャカシャカ撫でしようとすると、ガークから可哀相な子を見る目で見られる。


「カエデ……」

「いや、ちょっと待って。そんな目で見るのやめて。いいから見てて」

「もう分かった。いいから、街に帰ってゆっくり話をするぞ。俺が戻るまで逃げるなよ」

「なんだか私が逃げる前提の言い方はやめて」

「逃げるなよ」

「その時にスパキラ剣の威力見せるから、行こうスパキラ剣」


 カタカタとスパキラ剣が揺れる。スパキラ剣に声を掛けたことでガークが更に憐れんだ表情で見てくる。


「気を付けて街まで戻れよ」

「ガークもね。それじゃ、街で」


 ユキに跨りロワーの街へと出発する。ガークめ、スパキラ剣の凄さに腰を抜かすなよ! それにしても、マルゲリータもガークも私が逃げる前提で話を進めるのやめて欲しい。まぁ、不利になったら逃げる気満々だけど。

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