天秤
蜘蛛ゾンビを睨むマルクスをユキの上から無言で見下ろす。
「はは、返事もなしか小娘」
マルクスが息を切らしながら言う。
「ああ、私に話をしてんの? 蜘蛛ゾンビに話しているかと思った」
だってずっとそっちを見てるし。
「はっ。こいつにか? これはただの化物だ。人の言葉など理解できないただの物だ」
「言葉を話せなくとも……嫌いって感情はあるんじゃね?」
蜘蛛ゾンビは、どう見てもさっきからずっとマルクスを獲物と認定してるじゃん。私のことなんか見てもいない。カタカタと音を立てながらマルクスに集中する蜘蛛ゾンビは何かを待っているようだった。
マルクスが胸元を弄りながら焦った表情で何かを探す。
「これを探してんの?」
拾った水の魔石を見せるとマルクスが大声で叫ぶ。
「金だ」
「は?」
「欲しいだろ、金」
マルクスの言葉に少し考え微笑む。
「うん。お金は大事」
「はは、そうだぜ。そうこないと。それなら――」
「でもこの世界のお金を全部集めてもお前を助ける価値なくない?」
「そ、それなら情報だ。この騒動の黒幕の情報だ」
林の中からガサガサと音が聞こえると蜘蛛ゾンビの後ろ足が走りながら現れる。もう怖いって!
蜘蛛ゾンビの足を見たマルクスが声を裏返しながら言う。
「そのペンダントの本来の持ち主は絶対に欲しい情報だぜ」
蜘蛛ゾンビの足が胴体と融合し始める。これ殺せる? 不死身じゃね?
「おい! 聞け。セオドリックなら絶対あいつを恨んでるだろ!」
セオドリック? 誰? あの遺体の人の名前? 足元に触れる感触がして下を見れば、オハギが目覚め座りながらマルクスを鋭い目つきで見ていた。
「オハギ……ううん。オジニャンコ?」
【そうだ】
「起きたん?」
【まだだ。だが、見届けにきた】
何を? と尋ねたけど、オジニャンコはそれからマルクスから視線を逸らすことなくずっと見ているだけだった。
「何を一人で話してやが――ああ、ああ、そうか、そうだったのか。お前も『視える』奴だったのか。いや魔力もないのに……そうか、お前もあいつと同じ魔人か。化け物が」
吐き捨てるように言うマルクス。また魔人認定されてるし、やめて。
「魔人じゃないし。大体、魔人とか知らないし」
「知らない? まだ知らないだけだ。それなら、情報は尚更に必要だろ。助けろ。好きなだけ情報をやる」
しゃっくりをするように笑いながら言うマルクスの視線はずっと蜘蛛ゾンビに向いている。蜘蛛ゾンビの足との融合はほぼ終了したように見える。カクカクとしながらジリジリとマルクの元に一歩ずつ向かい始める。
遺体から預かっているネックレスの情報なら確かに探していた。でも……マルクスを見ながら手を振る。
「お前が死ぬ以上に欲してるものないし、バイバイ」
蜘蛛ゾンビが走り出しマルクスに抱き着きつく。マルクスの首の一部を噛みちぎると、胸元に腕を貫通させる。マルクスの背中と首からからは血しぶきが飛び、そのまま二人とも崖から落ちて行った。
「あ! 石バンバン」
マルクスの頭に狙いを定め、石バンバンを放つ。暗いが鈍い音がしたので何かに当たったと思う。たぶん。川に落ちる音が聞こえ、崖の上から双眼鏡で下を確認するが生死の確認ができない。あの状態死んだとしか思えない。川まで結構な距離……探しには行かない。隣にいるオジニャンコに尋ねる。
「あれ死んだと思う?」
【知らぬ。寝る】
そう言うとオジニャンコは背中で丸くなり、声を掛けても無反応だった。完全に寝てるし、このニャンコ自由過ぎない?
ふと崖から見えた東雲の空をしばらく眺め、深呼吸をする。
「すんごい疲れたんだけど!」
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