不揃いのナッツたちが勢揃い
「カエデ~、あれあれ」
地面に光るマルクスの持っていた不思議水が入っているであろう水の魔石を拾う。落とし物、多いな。
長身フードゾンビは首輪が取れるとマルクスに憎悪を向けた。ゾンビに感情があるか分からないけど、あれは動物的な痛めつけられた恨みに近いと思う。それならば……棒の付いた紐を握り、これでもかというほどに口角を上げる。
「これ、壊せばいいんじゃね」
棒の付いた紐を地面に落としスパキラ剣で落ちた棒を叩く、叩く、叩く。バキバキに棒が割れると足に巻き着いていたアクセサリーからカチっと音が聞こえ、緩くなるとずるりと落ちた。赤く光っていた棒も光も消えていた。
隠れたマルクスが勢いよく現れる。
「お、お前! まさかあれを割ったのか。何をしたのか分かっているのか……」
「お、出てきたじゃん」
「お前、本物の馬鹿だろ。狂ってやがるぜ」
「失礼じゃね? 狂ってるのは自分じゃん」
趣味が首切りの奴に言われたくない。スパキラ剣を構えると光の花火が今度は数回上がる。それを見たマルクスが舌打ちをするとすぐに走り出した。ちょっ、逃げ足が速くね? 石バンバンの攻撃、さらにスパキラ剣で刺したのにまだあんなに動けんの? 凄くない? 不思議水がね。マルクスじゃなくて。
「逃がさないって」
マルクスを追い掛け暗い林の中を走る。ガサガサと逃げる音はする。もう少しで追いつく。あと少し。
「カエデ~、臭いの来るだえ~」
ギンが後ろを見ながら言う。後方の木が激しく揺れカタカタ音が聞こえたので止まり振り返る。
「近いの?」
「近いだえ~」
スパキラ剣を構えるとカタカタ音は止まるが暗くて何も見えない。マルクスが逃げる音がどんどん遠ざかり、静かな林の中で自分の呼吸音だけが聞こえる。
――ギ、カタカタ
静かな中、鳴り響く音……これ、絶対あの子供の蜘蛛ゾンビがいる。
(はいホラー、はいホラー、はいホラー)
自分を落ち着かせるために何度も頭の中で繰り返す。スパキラ剣が勝手に動き上を向けば、黒い影が木の上からから飛んで来るのが見えた。ぎょえぇぇ、やばい!
「ガウゥガァ」
「ユキちゃん!」
茂みから飛んできたユキの爪で払われた影はゴロゴロと転がったが、すぐに立ち上がる。うん。予想通り蜘蛛ゾンビだし。その姿は最初に見た時より小さい人型だ。
黒い人型は少しだけこちらを観察すると、興味を失ったように私は放置してあちこち臭いを嗅ぎ始めた。カクカクと動きながら首を真逆に回転させるとピタリと止まり急に走り出した。
「えぇぇ。ユキちゃん、追いかけるよ」
もちろん自ら蜘蛛ゾンビに飛び込みたいわけじゃないけど、方角的にたぶんマルクスを追い掛けていったのだと思う。マルクスはここで完全に始末したいから追い掛けているだけだ。
ユキに乗り、蜘蛛ゾンビを追跡する。後ろからはうどんが追ってくる姿も確認する。うどんも無事でよかった。
しばらくすると広い場所に出た。そこには薄暗いが確認できるマルクス、蜘蛛ゾンビ、それから川が流れている音がする。マルクスが立っている崖の後ろは川なのだろう。月の光に照らされた蜘蛛ゾンビは両方の足を失い、両手だけで立っていた。ガークとの闘いで失くしたのだろう。
「俺を追い詰めたとでも思っているのか?」
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