邪魔な助っ人
「ま、まて――」
マルクスから初めて垣間見た恐怖を無視して石バンバンを打ち込もうとしたら、横から飛んできた燃える剣がマルクスの足元に刺さり燃え上がる。
「おい、なんだこの火は!」
火が自分に燃え移るのを避けたマルクスが子供を地面へ投げ捨てる。あの火の剣、ガークのじゃん。
「カエデ! 無事か!」
飛び込んできたガーク……すんごい邪魔なんだけど。だって、絶対――
「子供を人質に取るとは卑怯者が!」
ガークが大声で叫ぶ。あー、ほらやっぱり。
地面に落ちる前、ガークの火の剣が燃え上がる一瞬だけ子供の顔が見えた……あれはたぶんもう手遅れだ。もう顔の原型がないほど黒い血管が全てを覆っていた。
一瞬で状況を判断したマルクスは子供を抱き寄せ、咽るように言う。
「は、はは。そうだ武器を捨てろ。特にお前だ、カエデ。お前は武器を今すぐ地面に捨てろ」
ガークを見れば、言うこと聞けという視線が刺さる。子供に甘いのは私じゃなくてガークだし。全然助っ人になってないし。ガークは何しに来たん? スパキラ剣を撫でると少し熱くなっている。スパキラ剣を地面に投げたところで、私以外は誰も拾うことは出来ない。なんなら手元に自分で返って来る。心配なんかしていない。
「少しの間だけね。スパキラ剣、よろしく」
小声でそういうとスパキラ剣を地面へ投げた。ガークはすでに火の出る剣を投げていたけど、腰に差していた剣を地面へと投げる。その表情に焦りはなく余裕が見えた。隣にいた長身フードゾンビに武器を拾うように命令するマルクスを睨みながらガークが口を開く。
「武器を捨てたぞ。子供を離してやれ」
「そうそう。初めからそうしろ――まて、何故お前は動けていられる?」
口角を上げニヤついていたマルクスがすぐに困惑した表情でガークに尋ねた。ガークもマルクスの疑問が分からず、訝し気に言う。
「なんの話だ?」
ガークは自分の食べたスープが毒されていたって知らないから、互いに何を言っているのだこいつはって顔をしている。原因は不思議水なんだけど、説明がややこしいのでしない。
「どういうことだ? おい、早く武器を回収しろ!」
スパキラ剣を拾えずにもたつく隻腕になった長身フードゾンビに怒鳴り始めたマルクスだけど、スパキラ剣はあの怪力のサダコでさえ持ち上げることできなかったから無理だって。案の定、長身フードゾンビが無理に引っ張ったせいで残っていた腕もスパキラ剣を握ったまま取れてしまう。
「何してやがる。早くしろ!」
「両腕がないし、拾えないって。もう、諦めたら?」
シリアスな場面のはずだけど、このグダグダ感がなんだかおかしくなる。
「何を笑っている? この子供がどうなってもいいのか?」
「別にどうなろうがいいって伝えたじゃん。覚えていないん? それにその子供って助けたところでもう手遅れなんじゃない?」
マルクスの無言と焦った表情から、子供はもう助からないのだと理解する。マルクスが子供を抱えジリジリと一歩一歩下がり始めたが、逃がさない。
「カエデ、まだ待て」
「ん。無理」
ガークの制止を無視して走り出す。マルクス、どう考えても完全に逃げる気だし。先ずはまだ剣を拾おうとする長身フードゾンビを蹴り上げ、地面にいたスパキラ剣を呼ぶ。
「スパキラ剣、いくよ」
地面から飛んできたゾンビ腕付きスパキラ剣をキャッチ、ぐへぇぇ。
両腕がないままこちらに突進する長身フードゾンビの足にどこからともなく戻ってきたうどんが噛み付く。
「ナイス、うどん」
うどんが足止めしている間に長身フードゾンビの首を斬り落とす。
終わった? スパキラ剣からゾンビ腕を引き離し地面へ投げると、ユキの唸り声が聞こえる。首のない長身フードが立ち上がりカクカクと動く。
「えぇぇ。まだ動けんの?」
首無し腕ナシの長身フードゾンビは何故か私ではなくマルクスの方を見ている、顔はないけど。
私を鋭い眼光で見ながらマルクスが言う。
「お前! 余計なことをしやがって!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます