優先順位

 更に力いっぱい風の杖を振る。


「おらおら! こんな煙なんかでユキとうどんを攻撃しやがって」


 煙が引くと、先ほどまでいた場所にマルクスはいない。逃げた? ううん、殺気は感じるから、まだ近くにいるはず。


「不意打ちして隠れるのが、自分が言う美徳なん? とんだゴミみたいな美徳じゃね?」


 鈍い金属音が何度もする。また何かを投げている。マルクスが卑怯者だってことは良く分かった。でも、そんな卑怯な攻撃なんかスパキラ剣には効かないんだって! スパキラ剣もノリノリで左右に身体を振り今か今かと次の攻撃を待っている。


「出て来いって! クソ美徳野郎!」


 連続して当たれ当たれと交互に風の刃と石バンバンで辺りを無差別に攻撃する。人を抉るような音と叫び声が数回するがマルクスなのかその他なのか分からない。投げる物が尽きたのか攻撃が止み、マルクスが一番小柄のフードを掴み現れる。隣には長身のフードもカクカクと身体を動かしながら並ぶ。辺りにする血の臭いから男女の賊は私の攻撃に当たったんだと思う。


「ようやく出てくる気になったん?」

「お前は強い。それは分かった。まさか風魔法まで操れるとは後で情報屋を殺さないとな」


 カイだけじゃなくて情報屋ってところから私の情報を仕入れたってこと? 大した情報じゃなかったみたいだけど……普通に怖いし。

 掴んでいる子供は相変わらずフードで顔は見えないけど、大きさから10歳くらいの子供だと思う。まぁ、この世界見た目が全てでないとホブゴブリンたちから学んだので、あれが子供なのかは分からないけど。子供の足首には先ほど死んだ女が着けていたチョーカーとお揃いのゴールドブラスに魔石が埋め込んであるアクセサリーを着けている。

 マルクスが勝ち誇ったような顔で笑ったので速攻石バンバンで攻撃する。なんか、あの顔が凄いイラつくんだよね。イライラしていた気持ちはギンに撫でられると少し落ち着いた。

 今度こそ攻撃はマルクスの頭を貫通したと思ったのに、貫通したのは長身フードの腕だった。マルクスは地面に伏せギリギリで避けたようだ。盛大に舌打ちをする。フードたちがさっきから邪魔なんだけど。先ほどの攻撃で長身フードの顔全てに黒く浮き上がる血管が露わにる。こちらはさっきの女よりもゾンビ化が進んでいるようで、目の位置がどこか分かるくらい。首元には例のお揃いアクセサリーが見えた。

 マルクスは起き上がると、子供の腕を引っ張り大声で怒鳴る。


「おいおい、お前! この状況を分かっているのか?」

「は? 何が?」

「こちらにはこの人質の子供がいるということだ。見れば分かるだろ。頭が悪いのか?」

「で?」

「は?」


 マルクスが困惑した顔をする。いや、私だって状況は分かっている。決して子供を助けたくないとかいうサイコパスじゃないから。でも、あの子供は特に違和感あるんだよね。生きてるのを感じないというかカクカクすらもしていない。それに、マルクスが本当に一瞬だったけど子供を触るのを躊躇した。最近迷惑なことにやたらと悪党とゾンビに出くわす機会があるんで分かる。この感じ、あの子供っぽいのは何かある。ギンも臭いっていってるし、ゾンビだとは思う。どちらにしても純粋な子供ではないのは確か。あー、やだやだ。子供ゾンビとか、この世界がつらい。


「なんか勘違いしているみたいだけど、別に私は正義の味方じゃないし。なんで私がそのお子様を助ける必要があるん?」

「なんだと……」


 マルクスから「子供には甘いという話だったが――」と独り言が聞こえた。


(ああ、情報屋から双子やダリアとバンズの話を聞いていたのか)


 別に双子に特別甘くしてたつもりはなかった……確かに情は湧いているけど。それに、ホブゴブリン姉弟に至っては私より年上なんだけど。というか、いつから情報屋に見張られてたん? 本当に怖いんだけど。

 とりあえず、マルクスを殺そう。長身フードゾンビとゾンビ子供の処遇は未定……助けられるならそうするけど、危ないなら全員を斬る予定しかない。カエデ第一だから。


「もう話は終わりで、じゃあね」

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